キミの恋のはじまりは
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いつからそうなってたのか、はっきりとは覚えていない。
気づかないうちに、きっと自然にその違和感は始まっていた。
はじめは、些細なこと。
廊下のフックにかけていたはずの体操着袋が落ちちゃってたとか、そんな小さなこと。あれ、落ちちゃってる。かけとかなくちゃ、そんなふうにしか思わなかった。
次は、お道具箱の中に入れておいたはずのコンパスが見当たらなくなった。さすがに、何かがおかしいと思った。
小さい違和感は、事あるごとに確信へと変わって行って、泉に気づかれた。
『大丈夫だから、誰にも言わないで』
『でも!』
『いい、ほんとに平気だから!』
一生懸命、笑った。泉に心配かけたくなかった。いつもの太陽のような笑顔をこぼす泉と一緒にいたかったから。
でも、私が笑えば笑うほど、反対に泉は苦しそうに泣くのをこらえるような顔になる。
『……一緒にさがす』
朝は、下駄箱に上履きがない。帰りは、靴がない。毎日のこと。
先生や親に知らてたくない私のために、泉はぎゅっと口を結んで目を伏せながら、いつも一緒に探してくれた。
――――たぶん、あの頃から、私は心の中で泉に「ごめんね」ばかり言っている。口に出せなくなったから。