排球の女王様~全てを私に捧げなさい! 第二章
まさかのスランプ
*::*
春高予選が終わり、数日が経ったある日の放課後、犬崎高等学校の校内に放送が響き渡った。
「三年A組姫川莉愛さん、至急職員室まで来て下さい」
ホームルームが終わり、帰る準備をしていた莉愛は、自分の名前が呼ばれ困惑した。
そんな莉愛に、理花と美奈が声を掛ける。
「莉愛何かやったの?」
「早く職員室に行った方が良いよ」
莉愛は二人に促され、職員室に急いだ。職員室に着くと、莉愛に気づいた担任の山田先生が片手を上げ莉愛を呼ぶ。
「ああ、姫川こっちだ。狼栄大学高等学校の金井コーチから電話だ」
「えっ……私にですか?」
「とりあえず、話をしてみてくれ」
「はい……」
山田先生から受話器を渡され、それを耳に当てる。
「お待たせしました。姫川です。金井コーチこんにちは」
莉愛が簡単な挨拶を済ませると、電話口から金井コーチの困った様な、すまなそうな声が聞こえてきた。
「ああ……姫川さん、呼び出してすまないね。元気だったかい?」
「あっ……はい。元気ですけど……その……どうかされたんですか?」
「その……それが……」
何か言いにくいことでもあるのか、言い淀む金井コーチが、一瞬だけ間を開けると、意を決したように話し出した。
「姫川さん申し訳ないのだが、狼栄大学高等学校の方へ来てくれないか?」
「えっ……どういうことですか?」
「その……大地がまずい状態なんだ」
「大地が?何かあったんですか?怪我とか?」
怪我なら一大事だと焦る莉愛だったが、金井コーチは怪我では無いんだよと苦笑した。
それなら一体どうしたというのだろうか?
莉愛が受話器を持ったまま首を傾げていると、金井コーチが話を続けた。
「群馬県予選が終わり、春高に向けて練習にも皆、気合いを入れていたんだ。そんな時、突然大地が調子を崩したんだ。その……スランプというやつだな。何をやらせても上手くいかない状態に、本人も焦っているようで、こんなことは初めてでな。一度休んではどうかと話したんだが、大地は時間が無い、もったいないと、毎日練習に出ているんだよ」
大地が、スランプ……。
「それで、姫川さんには申し訳ないのだが、狼栄の方に来てもらって、マネージャーをしてもらいたいんだ。犬崎の先生方には話はしてあるから」
うわー。
先生に話は通してあるんだ。
これはもう逃げられない。
金井コーチ外堀を埋めてきたな。
そう思いながらも、大地のためならと、金井コーチに返事をした。
「分かりました。とりあえず、狼栄の方へ行きますね」
「ありがとう。姫川さんすまない」
*
莉愛は急ぎ狼栄大学高等学校へと向かい、体育館の扉前までやって来ると、金井コーチが申し訳なさそうに眉を寄せながら立っていた。
「姫川さん待っていたよ」
「それで大地の様子はどんな感じなんですか?」
「それは見てもらった方が、早いと思うんだ」
莉愛は体育館の扉を少し開け、大地の様子を確認した。
すると……。
全くといって威力の無いスパイクを打つ大地の姿があった。
「金井コーチ、大地はいつからあんな感じなんですか?」
「春高予選から帰って来て、数日は特に変わりはなかったんだ。しかし、何があったのか急にスランプ状態に入ってしまい。色々試しては見たのだが、変化は見られ無かった」
「そうですか……スパイクの他はどうなんです?」
「ああ、レシーブは問題なく上げることが出来ているが、サーブはダメだな」
スパイクと、サーブだけがダメってことね。
きっと何か原因があると思うんだけど……。
「大地自身もこんなことは初めてで、どうしたらよいのかと焦ってばかりで、体を酷使し続けているんだ。このままでは体を壊しかねない。そこで、姫川さんにストッパーになってもらいたくて来てもっらたんだ」
「そうだったんですね。でも……私でお役に立てるか……」
「大地は姫川さんの言うことは聞くだろうから、無理をし過ぎているときは言ってやってほしい。きみにしか頼めない。よろしく頼む」
頭を下げようとする金井コーチを止め、莉愛は決意を固めた。
「分かりました。頑張ります」