夏幻
急に腕を引っ張られ、そのまま彼の上に倒れ込んでしまう。――何もかも見透かしてしまいそうな瞳と、微かに香る夏の匂い。


儚くて、ノスタルジック。記憶が香りを探しだすより先に、彼の綺麗な指先が唇を撫でた。


思考が停止、時が止まったような感覚。


それでもなんとか、冷静さを保ってみせるけど、出てきたのはしょうもない言葉だった。


「ずっとどうでもよかったのに、あの夏、あの教室で、アンタの瞳と出会ったから……って言うたら信じてくれます?」

「……瞳? アイってやつですか?」

「どっちでもええわ、意味一緒だし」


グサッと刺さる一言を真顔で言われ、ちょっとへこんでしまう。

相変わらずよくわからない、烏丸夕霧っていう人物は。


「ジョーダンですって」

「も、もう!」


表情がくるくる変わる、なんだか万華鏡みたいだ。のぞく度、ちがう表情を魅せてくれる、魔法の道具。


 
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