葦名絢芽は、初恋を諦めたい
「帰ろっか」
「うん」

伊織くんは周囲に興味を示さないのか、特に反応することなく、私の手を取った。

嫌悪感が湧かないのは、相手が伊織くんで、好きな人だから。



「バスは使ってるっけ?」
「ううん、徒歩だよ」

今は、自宅までの道のりを案内をしながら伊織くんと並んで歩いている。

私の家は学校から一応徒歩圏内にある。

徒歩二十分の距離だけど、ちょっとした運動になるから苦にならない。

会話は少ないけど、思ったより気まずさはなくてほっとした。

お家に着いたら色々お話したいな。

「ここを曲がれば、あとは家までまっすぐだよ」
「結構分かりやすいな」
「でしょ?」

意外そうに目を丸くさせた伊織くんにくすりと笑っていた時、ふと、私はあることに気付いてしまった。

さっき、転入早々一番目立っている伊織くんと話している所を、他の生徒に見られてしまった。

カレカノと思われることはないだろうけど、目立たない私との組み合わせは、みんなの目に奇異に映っていたのかもしれない。

最悪、抜け駆けしたと見なされて、女子に敵視されるかもしれない……。

私は想像しただけで、ぶるぶると恐怖に震えていた。
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