葦名絢芽は、初恋を諦めたい
「――あやめ、絢芽」
揺さぶられて、重たい瞼を開けると、ベッドの傍に伊織くんがいた。
「いおり、くん……」
「久しぶりの学校で疲れたか」
まぶたを擦る私を見ながら、伊織くんは目を細めて小さな笑いを零している。
そんな笑顔を学校で見かけたら好きになる女の子は、続出するんだろうな……なんて思ったのは内緒。
「おばさん、今出かけていないけど、俺達にお昼作ってくれたんだって。一緒に食べよう」
「まだ、食べてなかったの?」
先にお母さんと食べても良かったのに……。
私が起きるまで食べずにいたなんて、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「絢芽と食べたかったから」
だけど、伊織くんはなんてことないように答えた。
私と食べたいなんて……優しいよ。
「待たせてごめんね。起こしてくれてありがとう」
私は謝罪と感謝の言葉を伊織くんに告げた。
テーブルに並べられていたのは、お母さん特製のオムライスだった。
ご飯はバターライスで、ソースはケチャップだったり、デミグラスソースだったりと変わるけど、とっても美味しいんだ。