葦名絢芽は、初恋を諦めたい
ラップがかけられたオムライスをレンジで温めてから、「いただきます」と手を合わせて、一緒に食べ始めた。
「うま」
お母さんのオムライスを一口食べた伊織くんは、目を丸くさせていた。
思っていたより感情表現が豊かな伊織くんに、思わず笑みが零れてしまう。
私が作った訳じゃないのに、なんだか嬉しくなってきた。
「美味しいね」
流石、お母さんだ。
パートとはいえ、働いているのにご飯も手を抜かないお母さんに尊敬しちゃう。
惣菜で楽すれば? と言ってみたけど、お母さんは料理は趣味の一つだから辞められないと笑って答えた。
学校や塾の課題に追われてすっかり甘えていたけど、少しは手伝った方がいいよね……。
私は内心反省しながらオムライスをもぐもぐと味わっていた。
「絢芽って、部活やってんの?」
食事中、伊織くんが私に尋ねてきた。
「帰宅部だよ。私、高校に入ってから塾に通ってるの」
そう答えると、伊織くんは難しい顔をして何か考え事を始めた。