葦名絢芽は、初恋を諦めたい
いきなり、同居
それは、まだ寒さが厳しい高校一年の二月までさかのぼる。
今日の夕食は、クリームシチューだった。
お母さん特製のクリームシチューは絶品で、食卓に出た日はそれだけでいい一日となる。
「──絢芽に朗報よ」
夕食の席でにっこり顔のお母さんは、私、葦名絢芽に前触れもなく切り出した。
「朗報って?」
お父さんは海外転勤中で、葦名家はお母さんと私のふたりきりだけど、朗らかでおちゃめなお母さんがいると明るくなる。
私は首を傾げながら聞き返すと、お母さんはにこにこと更に上機嫌な笑みを浮かべていた。
「春から伊織くんが我が家で暮らすことになりました!」
私は、テンション高めに言い放ったお母さんの言葉を、すぐに理解することが出来なかった。
「伊織くんって、あの、立花伊織くん?」
「そうよ」
「ど、どうして!?」
勢いよく立ち上がったせいで、ガタン、と椅子から大きな音を立ててしまう。
お母さんの肯定に、私の脳内は一気にパニックに陥ってしまった。