葦名絢芽は、初恋を諦めたい
「んーっ」
課題と予習を終えて、私は思い切り両腕を伸ばした。
通っている塾は課題が多くて、講義のレベルも高い。
一応難関大学の進学コースのクラスに入っている。
塾に入って間もない頃は、課題の多さに慣れなくて授業中にこっそりと片付けていたものだ。
ふと、机に置いてあるシャーペンの芯のケースが目に入った。
中身を見ると、三本しか残りがない。
コンビニに買いに行こうかな、と思い、出かける準備を始めた。
出かける前に伊織くんに声をかけよう。黙って出掛けるのは良くないよね。
鞄を持って自分の部屋を後にした。
一度伊織くんの部屋のドアの前に立ち、軽くノックする。「どうぞ」と返ってきたのでドアを開けた。
部屋はほとんど荷解きを終えていたのか、ダンボールは片されていた。
かつて家電が置かれていた部屋は、黒で統一されたシンプルながらも大人っぽい内装に変わっていた。
私の部屋は白を基調としているから真逆だ。
伊織くんはベッドの縁に腰かけて、ファッション雑誌を手にしていた。
「伊織くん、私、今からコンビニに行くんだけど、何かほしいものとかある?」
「俺も行くよ。ボールペン買いたかったから」
伊織くんはそう言うと、雑誌をベッドの上に置いた。
まさか一緒に行ってくれるとは思わず、私は思わず目を丸くさせた。