葦名絢芽は、初恋を諦めたい


在校生が集まる体育館で、始業式が始まり、今は苦行という名の校長先生の話が延々と続いている。

いくら進学校でも、真面目に聞いている生徒はいなくて、うとうとと舟を漕いでいる。

私も同じように眠気に襲われ、寝てしまいたい誘惑と必死に戦っていた。

ぼんやりと微睡んでいた時。

「──では、転入生の紹介をします」

先生の声に、体育館内はどよめき始めた。

静かだった館内は、徐々に大騒ぎになっていく。先生は「静粛に!」と大きな声で注意をし、ようやく静けさが訪れた。

「では、どうぞ」

話題に上がっていた転入生は、壇上の舞台袖から颯爽と現れた。

四年ぶりに見る伊織くんは、私の記憶の中の伊織くんとは一致しなかった。

同年代の平均より高い背丈、同い年とは思えないほど大人びた整った容姿をしている。

ミルクティーブラウンのショートの髪は当時のままだけど、無造作に整えられておしゃれだ。

「二年の立花伊織くんです。立花くん、自己紹介をお願いします」

司会をする教師に促されて、に置かれているマイクを手にした。

「立花伊織です。よろしく」

伊織くんは女の子達の黄色い悲鳴に何も反応を見せることなく、淡々と簡潔な自己紹介をした。
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