純愛カタルシス💞純愛クライシス
☆☆☆

 午前中、デスクで忙しそうに仕事をしてる若槻さんに、思いきって話しかけた。

「若槻さん、お昼奢るから一緒にどうかな?」

 本当は社内で話がしたかったものの、副編集長の監視カメラのことを考えたら、外に出て話をするのが安全だと判断。それで誘ってみたのである。

(今回のことが副編集長の耳に入ったりしたら、まず間違いなく二人そろって、仲良くお説教を食らうことになるのがわかる!)

 副編集長は美羽姉と一緒に飲みながら、いろんな話をしたことで、彼女をとても気に入ったらしい。なにかにつけて『白鳥が美羽ちゃんの彼氏で羨ましい』など、いろいろ言われている。

 そんなお気に入りの美羽姉を傷つけることをした俺たちの行為を、副編集長が知ったらどうなるか、火を見るより明らかだった。

「白鳥の奢りって、なにか頼み事をしたくて奢ってくれる感じ?」

 若槻さんは、訝しさマックスの面持ちで俺を見る。

「頼み事というか、お礼を兼ねている感じ」

「お礼?」

「若槻さんがボツになった、例の記事で教えてくれた知識のおかげで、犯罪者の手から彼女を守ることができたんだ」

『痴漢』や『いじめ』という言葉で、犯罪を軽いものとは思わないでほしい。というコンセプトで若槻さんが記事をつくった際に、予備知識として頭に入れてみてと、性犯罪や暴行罪についてあれこれメモったことが、あのとき生かされた。その結果、堀田さんの魔の手から美羽姉を守ることができた。

(あのセリフのおかげで、向こうが俺を警察官だと思ったこと間違いなし!)

「よくわかんないけど、奢ってくれるのなら黙って奢られるわ」

 こうしてふたりでお昼時に社外に出て、近所にあるファミレスで昼食をとることになった。

 他愛ない話をしながら食事をし、食後のコーヒーを飲むときになって、やっと本題を切り出す。

「あのね若槻さん、この間の呼び出しのときのことなんだけどさ」

「あー、あれね。本当にごめん。力を入れたネタがボツになったくらいで弱気になって、白鳥に甘えてしまって」

「実は一部始終を、彼女に見られていたんだ」

 俺が言った途端に、若槻さんは持っていたコーヒーカップをガシャンと大きな音を鳴らして置く。

「ちょっと、それすごい問題じゃないの……」

「うん。少しだけ揉めた」

「なんでそのこと、私にすぐに言ってくれなかったの? 誤解を解くために、速攻で頭を下げに行くのに!」

 テーブルを拳で殴りながら怒鳴られたせいで、ビビりまくるしかない。

「あれは、俺の態度もよくなかったからさ。誰にでも優しい態度で接しちゃいけないって、わかったことに繋がったし。だから事後報告になったというわけ」

「だとしても、私としてはこのままじゃ嫌だよ。彼女に会わせて!」

「もう終わったことだから、いまさらいいって」

「よくないに決まってるでしょ! 今この話を聞いた私が、まだ終わってない! 彼女に会わせて!」

 俺が絶対に断れないであろう、めちゃくちゃ怖い顔つきで言われたため、美羽姉にLINEでそのことを報告したら、今日は早めに帰るらしく、俺のマンション近くの公園で待ち合わせることになったのだった。
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