純愛カタルシス💞純愛クライシス
 編集部から飛び出した俺は、急いてスマホを手にしてLINEの画面を表示させた。

 この時間帯、美羽姉は間違いなく仕事をしているだろうから、既読にならない可能性のほうが高い。それでも――。

(せっかくの休みを半日以上ベッドの中で過ごし、鬱々した気持ちをなんとかしたくて編集部に顔を出して、昨日のことを一ノ瀬さんに愚痴ってみたけど、慰められるどころか、なにやってんだと呆れられてしまったもんな)

 美羽姉の勤める会社と自宅の中間地点を目指して、ひたすら走る。走りながら、LINEの文面を考えた。というか、考えるまでもない。謝るのが当たり前だ。

(美羽姉、今どこ?)

 それなのに弱い俺は、最初にその文章を打ち込むことができなかった。どこにいるかを訊ねるのが精一杯なんて、どんだけバカなんだろう。

『好き合ってるから、相手に非があるとは互いに思わない。付き合いたての恋人って、特にそういうところがあるんだよ』

 副編集長のありがたいお言葉が、頭の中でループする。俺にとってははじめてのことばかりで、手の打ちようがなく、すべてをもてあますばかり。

 既読にならないスマホを手にしたまま、中間地点の公園に到着し、大きな手ため息を吐きながらベンチに腰掛ける。全力で走っていたせいで、なかなか呼吸が整わない。同じようにマイナス思考な気持ちも、ムダに現状維持してしまった。

(このまま美羽姉にスルーされたらどうしよう……)

 せっかく付き合うことができたのに、ちょっとしたことで簡単に心が揺らいでしまう。付き合う前のほうが諦めがあった分だけ、まだ余裕があった気がする。

「めちゃくちゃ情けない。俺ってこんなにヘタレだったんだ……」

 自分を見つめ直して反省しているところに、LINEの返信が着た。おもしろいくらいに落ち込んでいたのもあって、1時間以上経過していることすら気づけなかった。

 美羽姉の返信にすぐさま返事をし、会社に向けて駆け出した。開口一番は決まってる。格好悪くてもいい。とにかくまずは謝りたい。

 副編集長に指摘された格好悪すぎる髪型のことをすっかり忘れて、ひたすら美羽姉の元を目指した。
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