純愛カタルシス💞純愛クライシス
「……よく、覚えてますね」
「だって大好きだったカレシに、こっぴどく振られたあとだったんだもの。声をかけた成臣くんの表情まで、全部覚えてる」
小さく笑う千草ちゃんだったが、内容が内容だけに俺は笑うワケにもいかず、返答にひどく困った。
「この頃の私、ショックで自分がどうでもよくなっていた時期でもあって。だけど成臣くんとの出逢いで、私は救われたんだよ」
「失礼いたします」
耳に残る千草ちゃんの優しい声に聞き惚れていたら、目の前に注文した酒が提供される。
「乾杯しましょ、復讐の成功を祝って」
「ああ……」
(自分の手でおこなえなかった復讐の乾杯をすることになろうとは、人生ってなにが起こるかわからないものだな)
「乾杯っ!」
互いにグラスを手に持ち、どちらからともなく軽く接触させて乾杯させてから、それぞれハイボールを口にした。
「美味い――」
ウイスキーを炭酸で割って味が薄まっているのに、口内にハイボールが流れ込んだ瞬間に感じた果実の風味と樽の香りが、炭酸とともにふわっと鼻腔を突き抜ける。複雑な旨みと存在感のある独特なスモーキーさは好みもわかれるだろうが、俺はとても気に入った。
「成臣くんが美味しいって言ってくれてよかった。このウイスキーをロックにして、時間をかけて飲むのもいけるわよ」
「へぇ。これだけ美味いのなら、かなりの年代物じゃないのか?」
興奮を隠しきれずに訊ねた俺に、千草ちゃんはなぜかやるせなさそうな面持ちで答える。
「特別な日に飲むものだからね。それなりに美味しいものを飲みたいじゃない」
「だったら俺は、復讐に手を貸した甲斐があったわけだ」
すぐに飲み干すにはもったいないハイボールを、ちびちび口にする俺とは違い、千草ちゃんは半分以上煽るように喉を鳴らしながら飲む。
「私ね、好きな人がいるの」
唐突に告白されたことにギョッとしつつ、手にしていたグラスをテーブルに置き、千草ちゃんの話に耳を傾けた。
「その人と深い関係になる前は、ちょっといいなって思うくらいだった。『めっちゃ萎える女』っていろんな男に言われた私を、その人はすごく感じさせてくれたのよ」
「めっちゃ萎えるって、千草ちゃんが? だって普通に感じていたじゃないか」
だから8時間という長時間を、一緒に過ごしたというのに。
「大好きだった人に、それが原因でフラれてしまってね。やけになってほかの人とも関係を持ったんだけど、同じような評価を下されたわ」
(まさか、すごい女がいるって称されていた千草ちゃんのすごいの意味が、そういうことだったとは!)
「じゃあ俺たち、奇跡的に相性が良かったってことなんだな」
思わぬ展開にぷぷっと吹き出すと、千草ちゃんも隣で同じように笑い声をあげた。
「本当に驚いたわよ。あんなにエッチに熱中したのも、はじめてだったし」
「未だにあの時間を超えるセックスはできてない。若さもあったんだろうけど、いやはや本当にすごかった」
忍び笑いをしながら、ふたたびグラスに口をつける。半分くらい飲み干したハイボールに浮かぶ氷が、少しだけ溶けているのが目についた。
「あのあと、成臣くんに声をかけたかったんだけど、やっぱりほら、恥ずかしかったんだよね」
「なんかわかる。やり過ぎた感があって、ちょっとな」
溶けかけた氷を人差し指でくるくる回して、照れ隠しした。あの頃のことを思い出すだけで、気持ちが若くなるのが不思議だった。
「だから今度は絶対に、タイミングを逃したくないって思ったの。成臣くんが好きよ」
照れがまじった千草ちゃんの声と、グラスの中の氷が耳障りのいい甲高い音をたてたのが同時だった。
「だって大好きだったカレシに、こっぴどく振られたあとだったんだもの。声をかけた成臣くんの表情まで、全部覚えてる」
小さく笑う千草ちゃんだったが、内容が内容だけに俺は笑うワケにもいかず、返答にひどく困った。
「この頃の私、ショックで自分がどうでもよくなっていた時期でもあって。だけど成臣くんとの出逢いで、私は救われたんだよ」
「失礼いたします」
耳に残る千草ちゃんの優しい声に聞き惚れていたら、目の前に注文した酒が提供される。
「乾杯しましょ、復讐の成功を祝って」
「ああ……」
(自分の手でおこなえなかった復讐の乾杯をすることになろうとは、人生ってなにが起こるかわからないものだな)
「乾杯っ!」
互いにグラスを手に持ち、どちらからともなく軽く接触させて乾杯させてから、それぞれハイボールを口にした。
「美味い――」
ウイスキーを炭酸で割って味が薄まっているのに、口内にハイボールが流れ込んだ瞬間に感じた果実の風味と樽の香りが、炭酸とともにふわっと鼻腔を突き抜ける。複雑な旨みと存在感のある独特なスモーキーさは好みもわかれるだろうが、俺はとても気に入った。
「成臣くんが美味しいって言ってくれてよかった。このウイスキーをロックにして、時間をかけて飲むのもいけるわよ」
「へぇ。これだけ美味いのなら、かなりの年代物じゃないのか?」
興奮を隠しきれずに訊ねた俺に、千草ちゃんはなぜかやるせなさそうな面持ちで答える。
「特別な日に飲むものだからね。それなりに美味しいものを飲みたいじゃない」
「だったら俺は、復讐に手を貸した甲斐があったわけだ」
すぐに飲み干すにはもったいないハイボールを、ちびちび口にする俺とは違い、千草ちゃんは半分以上煽るように喉を鳴らしながら飲む。
「私ね、好きな人がいるの」
唐突に告白されたことにギョッとしつつ、手にしていたグラスをテーブルに置き、千草ちゃんの話に耳を傾けた。
「その人と深い関係になる前は、ちょっといいなって思うくらいだった。『めっちゃ萎える女』っていろんな男に言われた私を、その人はすごく感じさせてくれたのよ」
「めっちゃ萎えるって、千草ちゃんが? だって普通に感じていたじゃないか」
だから8時間という長時間を、一緒に過ごしたというのに。
「大好きだった人に、それが原因でフラれてしまってね。やけになってほかの人とも関係を持ったんだけど、同じような評価を下されたわ」
(まさか、すごい女がいるって称されていた千草ちゃんのすごいの意味が、そういうことだったとは!)
「じゃあ俺たち、奇跡的に相性が良かったってことなんだな」
思わぬ展開にぷぷっと吹き出すと、千草ちゃんも隣で同じように笑い声をあげた。
「本当に驚いたわよ。あんなにエッチに熱中したのも、はじめてだったし」
「未だにあの時間を超えるセックスはできてない。若さもあったんだろうけど、いやはや本当にすごかった」
忍び笑いをしながら、ふたたびグラスに口をつける。半分くらい飲み干したハイボールに浮かぶ氷が、少しだけ溶けているのが目についた。
「あのあと、成臣くんに声をかけたかったんだけど、やっぱりほら、恥ずかしかったんだよね」
「なんかわかる。やり過ぎた感があって、ちょっとな」
溶けかけた氷を人差し指でくるくる回して、照れ隠しした。あの頃のことを思い出すだけで、気持ちが若くなるのが不思議だった。
「だから今度は絶対に、タイミングを逃したくないって思ったの。成臣くんが好きよ」
照れがまじった千草ちゃんの声と、グラスの中の氷が耳障りのいい甲高い音をたてたのが同時だった。