純愛カタルシス💞純愛クライシス
♡♡♡
(成臣くんの口から、敬語がまったく出なかった!)
本当はもっと一緒にいたかった。だけどこれ以上傍にいたら、ボロが出るとわかったので、あのときは名残惜しさをひた隠しにして帰った。
臥龍岡先輩からのミッション――それはとても難しいことで、神妙な顔した先輩にそれを指示されたときは、どうしようって思った。
『千草ちゃん、いいこと。これからは一ノ瀬を好きな気持ちを、なんとかして封印しなきゃ駄目よ』
「封印ですか……」
臥龍岡先輩は顔の傍に人差し指をたてて、私が集中するようにレクチャーしてくれる。
『まずは一ノ瀬がやってることを、そっくりお返ししてやりなさい。それをするには、好きという気持ちを封印しなきゃダメなのよ。それがちょっとでも漏れ出たら、この作戦は失敗に終わるわ』
「つまり、ミラーリングですね?」
『そうよ。自分を好きな千草ちゃんにやっていたことを、一ノ瀬に思い知らせるの。そして深く考えさせる。千草ちゃんとの距離感が倍増したことに気づき、アイツが物足りなさを感じたら、しめたものよ!』
自信満々に言い放つ臥龍岡先輩には申し訳なかったけど、成臣くんを想う気持ちを隠さなければならない難しさに、思わず胸元を押さえた。
「うまくできるかな」
『なんだったら俳優やってた白鳥に、アドバイスしてもらう?』
「美羽ちゃんの幼なじみで恋人の――」
成臣くんの計画に加担した、美羽ちゃんの恋人。不倫相手の心を手玉に取り、散々翻弄したことを美羽ちゃん経由で聞いた。
好きな人を傷つけた不倫相手を前にして、冷静に対峙できるメンタルは、やっぱりすごいと思える。きっとそれは、並み大抵のことじゃないはず。ひとえに好きな人のために自分の感情を殺して、復讐にいそしんだんだろうな。
「臥龍岡先輩、とても大変でつらいことになることがわかっていますが、成臣くんを手に入れるために頑張ってみます!」
ずっと傷ついたまま日々を過ごしている彼を、私が癒やしてあげたい。成臣くんと逢ったときは、そのことを思い出して、好きという気持ちを隠し通した。
ここからが問題である。このあとどうやって、成臣くんと逢う約束をするのか。今回は成臣くんが誘ってくれたから、普通に映画に行ったけど、次の約束をせずに、そのまま帰ってきてしまった。
友達として遊びに行くにしても、それらしい場所はどこだろうかと、自宅にて悶々としていたら、テーブルに置きっぱなしにしていたスマホが鳴った。画面を見たらなんと、臥龍岡先輩からだった。
「もしもし」
『もしもしじゃないでしょ、なにやってんの!』
開口一番に叱られてしまったことに、驚きを隠せない。
「あの、なにか私、やらかしてしまったでしょうか?」
『そんなもん、一ノ瀬が撮った写真を見れば、一目瞭然よ。デレた顔しちゃって』
「映画を見てる最中とか喫茶店でのやり取り中は、自分なりに頑張りましたよ」
今日あったことを反芻しながら、口にする。傷ついた成臣くんを助けなきゃいけないって、何度も思い返しつつ彼に接した。
『一ノ瀬が写真を撮ってる間なんて、ほんの一瞬じゃないの』
「あれはですね、好きな人に見つめられることとか、成臣くんがスマホをかまえてる姿がすごくすごく素敵すぎて、ときめいてしまったんです、ほんの一瞬……。だからそのあと、すぐに帰ってきました」
『よしよし。きちんと見極めることができたのね、偉いわ』
叱られたと思ったのも束の間、いきなり褒められてしまった。
「成臣くん、なにか言ってました?」
あのあと別れてしまったので、彼がどう思ったのか知りたかった。
『送られてきた写真を見た瞬間、私は千草ちゃんがやらかしたなって思ったの。だけどアイツは写された千草ちゃんの心を見ずに、写真全体を捉えた感想を教えてくれたわ。白鳥と比べると、たいしたことのない写真しか撮れないって』
「そうでしたか……」
『だからあえて質問してやったの。「写ってる彼女は、どんなふうに見える」って』
成臣くんの目に映るあのときの私は、どんな感じに見えたのかな。かわいいとか綺麗じゃないのは確かだけど。
黙ったまま、臥龍岡先輩の言葉の続きに耳を傾けた。
『そしたらアイツってば、楽しそうだってひとこと言ったの。楽しそうな顔と言えばそうだけど、恋を忘れると相手のそういう気持ちすら捉えることができないのね』
「楽しかったですよ、実際。それは間違いないことです」
成臣くんの傍にいるだけで、本当に楽しくて仕方なかった。
『だから私、言ってやったわ。楽しそうな相手とどんどん出かけて、落ち込んだ気持ちをどこかに吹き飛ばしなさいって。鉄は熱いうちに打てって言うでしょ。さっさと連絡して次につなげなさいって、一ノ瀬に命令しておいたから、楽しみに待っていればいいから。千草ちゃんから連絡しないようにねっていう、念押しの電話よ』
痒いところに手が届きまくるという感じの臥龍岡先輩のご厚意に、丁寧にお礼を告げて電話を切った。そしたらその日のうちに、成臣くんからラインが――。
(今日は映画に付き合ってくれてありがとう。千草ちゃんと行きたいところがあるんだけど、今度の休みはいつになる? そっちの休暇に合わせて休みたいから教えてほしい)
ラインを読んだ瞬間、ガッツポーズをつくってしまった。臥龍岡先輩の命令とはいえ、こうして誘ってくれることに、ウキウキせずにはいられない。次はどんな格好で行こうかなって思いながら、成臣くんに休みの日を教えたのだった。
(成臣くんの口から、敬語がまったく出なかった!)
本当はもっと一緒にいたかった。だけどこれ以上傍にいたら、ボロが出るとわかったので、あのときは名残惜しさをひた隠しにして帰った。
臥龍岡先輩からのミッション――それはとても難しいことで、神妙な顔した先輩にそれを指示されたときは、どうしようって思った。
『千草ちゃん、いいこと。これからは一ノ瀬を好きな気持ちを、なんとかして封印しなきゃ駄目よ』
「封印ですか……」
臥龍岡先輩は顔の傍に人差し指をたてて、私が集中するようにレクチャーしてくれる。
『まずは一ノ瀬がやってることを、そっくりお返ししてやりなさい。それをするには、好きという気持ちを封印しなきゃダメなのよ。それがちょっとでも漏れ出たら、この作戦は失敗に終わるわ』
「つまり、ミラーリングですね?」
『そうよ。自分を好きな千草ちゃんにやっていたことを、一ノ瀬に思い知らせるの。そして深く考えさせる。千草ちゃんとの距離感が倍増したことに気づき、アイツが物足りなさを感じたら、しめたものよ!』
自信満々に言い放つ臥龍岡先輩には申し訳なかったけど、成臣くんを想う気持ちを隠さなければならない難しさに、思わず胸元を押さえた。
「うまくできるかな」
『なんだったら俳優やってた白鳥に、アドバイスしてもらう?』
「美羽ちゃんの幼なじみで恋人の――」
成臣くんの計画に加担した、美羽ちゃんの恋人。不倫相手の心を手玉に取り、散々翻弄したことを美羽ちゃん経由で聞いた。
好きな人を傷つけた不倫相手を前にして、冷静に対峙できるメンタルは、やっぱりすごいと思える。きっとそれは、並み大抵のことじゃないはず。ひとえに好きな人のために自分の感情を殺して、復讐にいそしんだんだろうな。
「臥龍岡先輩、とても大変でつらいことになることがわかっていますが、成臣くんを手に入れるために頑張ってみます!」
ずっと傷ついたまま日々を過ごしている彼を、私が癒やしてあげたい。成臣くんと逢ったときは、そのことを思い出して、好きという気持ちを隠し通した。
ここからが問題である。このあとどうやって、成臣くんと逢う約束をするのか。今回は成臣くんが誘ってくれたから、普通に映画に行ったけど、次の約束をせずに、そのまま帰ってきてしまった。
友達として遊びに行くにしても、それらしい場所はどこだろうかと、自宅にて悶々としていたら、テーブルに置きっぱなしにしていたスマホが鳴った。画面を見たらなんと、臥龍岡先輩からだった。
「もしもし」
『もしもしじゃないでしょ、なにやってんの!』
開口一番に叱られてしまったことに、驚きを隠せない。
「あの、なにか私、やらかしてしまったでしょうか?」
『そんなもん、一ノ瀬が撮った写真を見れば、一目瞭然よ。デレた顔しちゃって』
「映画を見てる最中とか喫茶店でのやり取り中は、自分なりに頑張りましたよ」
今日あったことを反芻しながら、口にする。傷ついた成臣くんを助けなきゃいけないって、何度も思い返しつつ彼に接した。
『一ノ瀬が写真を撮ってる間なんて、ほんの一瞬じゃないの』
「あれはですね、好きな人に見つめられることとか、成臣くんがスマホをかまえてる姿がすごくすごく素敵すぎて、ときめいてしまったんです、ほんの一瞬……。だからそのあと、すぐに帰ってきました」
『よしよし。きちんと見極めることができたのね、偉いわ』
叱られたと思ったのも束の間、いきなり褒められてしまった。
「成臣くん、なにか言ってました?」
あのあと別れてしまったので、彼がどう思ったのか知りたかった。
『送られてきた写真を見た瞬間、私は千草ちゃんがやらかしたなって思ったの。だけどアイツは写された千草ちゃんの心を見ずに、写真全体を捉えた感想を教えてくれたわ。白鳥と比べると、たいしたことのない写真しか撮れないって』
「そうでしたか……」
『だからあえて質問してやったの。「写ってる彼女は、どんなふうに見える」って』
成臣くんの目に映るあのときの私は、どんな感じに見えたのかな。かわいいとか綺麗じゃないのは確かだけど。
黙ったまま、臥龍岡先輩の言葉の続きに耳を傾けた。
『そしたらアイツってば、楽しそうだってひとこと言ったの。楽しそうな顔と言えばそうだけど、恋を忘れると相手のそういう気持ちすら捉えることができないのね』
「楽しかったですよ、実際。それは間違いないことです」
成臣くんの傍にいるだけで、本当に楽しくて仕方なかった。
『だから私、言ってやったわ。楽しそうな相手とどんどん出かけて、落ち込んだ気持ちをどこかに吹き飛ばしなさいって。鉄は熱いうちに打てって言うでしょ。さっさと連絡して次につなげなさいって、一ノ瀬に命令しておいたから、楽しみに待っていればいいから。千草ちゃんから連絡しないようにねっていう、念押しの電話よ』
痒いところに手が届きまくるという感じの臥龍岡先輩のご厚意に、丁寧にお礼を告げて電話を切った。そしたらその日のうちに、成臣くんからラインが――。
(今日は映画に付き合ってくれてありがとう。千草ちゃんと行きたいところがあるんだけど、今度の休みはいつになる? そっちの休暇に合わせて休みたいから教えてほしい)
ラインを読んだ瞬間、ガッツポーズをつくってしまった。臥龍岡先輩の命令とはいえ、こうして誘ってくれることに、ウキウキせずにはいられない。次はどんな格好で行こうかなって思いながら、成臣くんに休みの日を教えたのだった。