純愛カタルシス💞純愛クライシス
しょんぼりした気持ちを抱えて、俯きながらさっき成臣くんを掴んだ手を見つめていると、すぐ隣に彼が腰かけた。
「お客様、アールグレイの無糖でございます」
成臣くんは持ってきた水筒から温かい紅茶をプラスチックのコップに注ぎ、私に手渡した。
「ありがとう。紅茶なんて用意してたんだ、驚いた……」
「千草ちゃんとこの景色を見ながら、飲んでみたいって思った。ただそれだけ」
もうひとつのコップにも紅茶を注ぎ、一口飲んで目の前を見つめる。私も同じように紅茶を飲んで、美味しいって言ってから、景色を堪能しなきゃいけないハズなのに、それがどうしてもできない。
一緒にいるこの瞬間の成臣くんを、どうしても見逃したくなくて、両手にコップを包み込んだまま、隣に視線を縫いつけてしまった。
「千草ちゃん、俺を見すぎ。恥ずかしいから、いい加減に前を向いてくれ」
「だって――」
「そんなふうに見つめられたら、恥ずかしさでどうにかなってしまう」
成臣くんは手にしたコップをベンチに置き、私の頭を両手で掴んで、無理やり前を向かせた。
「あ……」
どこまでも続く砂浜と、少しだけ傾きかけた太陽の光が海に乱反射して、とても綺麗だった。
「この間、一緒に映画を見たときも思ったんだ。隣に千草ちゃんがいると、ひとりよりも楽しいなって」
私が成臣くんを見ないようにするためか、頭から両手を外さずに喋り続ける。
「千草ちゃんと逢えない時間を潰すのに、ひとりで夏祭りの花火を見たり、音楽を聴いたり。いつもどおりの時間の潰し方をしているのに、なにか物足りなさを感じた」
☆裏話の(夏祭り)にて黄昏てる一ノ瀬を参照!
「成臣くんの顔を見て話がしたい!」
「千草ちゃんの顔を見たら、言いたいことが言えなくなるから、もう少しだけ我慢してくれ」
成臣くんのセリフで、なにか大事な話をしてくれることがわかった。ワガママを言わないように口を引き結び、そのまま前を向き続ける。
「千草ちゃんと逢ってから、自分がすごく醜く思えた。好きって言われるたびに、どうしてこんな俺をって、腰が引けてさ」
「私、すごく後悔したの。大学生のときにエッチで長時間を過ごした事実が恥ずかしくて、そのあと成臣くんに声をかけられなかったことを」
「うん……」
当時のことを思い出しながら、静かに語りかける。両手に包んでるプラスチックのコップから、ほのかなあたたかさを感じて、落ち着くことができた。
「成臣くんが先に卒業して、完全に縁が切れたことで、もう終わった過去として吹っ切ろうとしたのに、どうしてもできなかった。吹っ切ろうとすればするだけ、好きという想いが大きくなっていった。だから、ほかの人を好きになれなかった」
「千草ちゃん――」
「きっとこれが私にとって、最初で最後の恋になる。成臣くんがその気になるまで、私は何年でも待てるよ!」
自分の想いを言の葉にのせて、ハッキリ告げた。
「待たなくていい」
前を向いたままだったから、大きな声で宣言したというのに、成臣くんからの返事が否定的なものだったせいで、落ち着いていた心が一瞬で波打つ。
「……お願い、そんなこと言わないで」
成臣くんのセリフを悲しく感じていたら、私の頭を固定していた両手がやんわりと外される。たどたどしく首を横に動かして成臣くんを見ると、私の目に映る彼の顔は、穏やかさを漂わせたものだった。
「千草ちゃんは待たなくていい」
「嫌だよ、そんなの。だって私は――」
強い海風が私の気持ちと一緒に言葉をかき消そうと、大きく吹き抜ける。
(これを言ってしまったら、今までの苦労が全部無駄になる。それがわかってるけど、ほとばしる想いをとめることなんてできない)
「成臣くんが好――」
声高に叫ぶ私の唇を、アールグレイの香りをまとった唇が優しく塞いだ。
「お客様、アールグレイの無糖でございます」
成臣くんは持ってきた水筒から温かい紅茶をプラスチックのコップに注ぎ、私に手渡した。
「ありがとう。紅茶なんて用意してたんだ、驚いた……」
「千草ちゃんとこの景色を見ながら、飲んでみたいって思った。ただそれだけ」
もうひとつのコップにも紅茶を注ぎ、一口飲んで目の前を見つめる。私も同じように紅茶を飲んで、美味しいって言ってから、景色を堪能しなきゃいけないハズなのに、それがどうしてもできない。
一緒にいるこの瞬間の成臣くんを、どうしても見逃したくなくて、両手にコップを包み込んだまま、隣に視線を縫いつけてしまった。
「千草ちゃん、俺を見すぎ。恥ずかしいから、いい加減に前を向いてくれ」
「だって――」
「そんなふうに見つめられたら、恥ずかしさでどうにかなってしまう」
成臣くんは手にしたコップをベンチに置き、私の頭を両手で掴んで、無理やり前を向かせた。
「あ……」
どこまでも続く砂浜と、少しだけ傾きかけた太陽の光が海に乱反射して、とても綺麗だった。
「この間、一緒に映画を見たときも思ったんだ。隣に千草ちゃんがいると、ひとりよりも楽しいなって」
私が成臣くんを見ないようにするためか、頭から両手を外さずに喋り続ける。
「千草ちゃんと逢えない時間を潰すのに、ひとりで夏祭りの花火を見たり、音楽を聴いたり。いつもどおりの時間の潰し方をしているのに、なにか物足りなさを感じた」
☆裏話の(夏祭り)にて黄昏てる一ノ瀬を参照!
「成臣くんの顔を見て話がしたい!」
「千草ちゃんの顔を見たら、言いたいことが言えなくなるから、もう少しだけ我慢してくれ」
成臣くんのセリフで、なにか大事な話をしてくれることがわかった。ワガママを言わないように口を引き結び、そのまま前を向き続ける。
「千草ちゃんと逢ってから、自分がすごく醜く思えた。好きって言われるたびに、どうしてこんな俺をって、腰が引けてさ」
「私、すごく後悔したの。大学生のときにエッチで長時間を過ごした事実が恥ずかしくて、そのあと成臣くんに声をかけられなかったことを」
「うん……」
当時のことを思い出しながら、静かに語りかける。両手に包んでるプラスチックのコップから、ほのかなあたたかさを感じて、落ち着くことができた。
「成臣くんが先に卒業して、完全に縁が切れたことで、もう終わった過去として吹っ切ろうとしたのに、どうしてもできなかった。吹っ切ろうとすればするだけ、好きという想いが大きくなっていった。だから、ほかの人を好きになれなかった」
「千草ちゃん――」
「きっとこれが私にとって、最初で最後の恋になる。成臣くんがその気になるまで、私は何年でも待てるよ!」
自分の想いを言の葉にのせて、ハッキリ告げた。
「待たなくていい」
前を向いたままだったから、大きな声で宣言したというのに、成臣くんからの返事が否定的なものだったせいで、落ち着いていた心が一瞬で波打つ。
「……お願い、そんなこと言わないで」
成臣くんのセリフを悲しく感じていたら、私の頭を固定していた両手がやんわりと外される。たどたどしく首を横に動かして成臣くんを見ると、私の目に映る彼の顔は、穏やかさを漂わせたものだった。
「千草ちゃんは待たなくていい」
「嫌だよ、そんなの。だって私は――」
強い海風が私の気持ちと一緒に言葉をかき消そうと、大きく吹き抜ける。
(これを言ってしまったら、今までの苦労が全部無駄になる。それがわかってるけど、ほとばしる想いをとめることなんてできない)
「成臣くんが好――」
声高に叫ぶ私の唇を、アールグレイの香りをまとった唇が優しく塞いだ。