純愛カタルシス💞純愛クライシス
「なんかムカつく~! 私ってば一ノ瀬に、いいように利用されただけじゃない!」

「アキラ、怒ってるところ悪いが、もう少し冷静になってくれ。相談したいことがある」

「あ゛あ? いまさらなんなのよ?」

 臥龍岡は椅子から立ち上がり、腰に手を当てながら目の前を睨み据える。

「バツがふたつもついてるおまえなら、プロポーズだって二回してるわけだろ?」

「それがどうしたって言うのよ?」

 一ノ瀬を睨むまなざしが、告げられたセリフでさらに険しくなったが、それすらもおもしろいと言わんばかりに、一ノ瀬はニッコリほほ笑む。

「どんな場所で、なにをプレゼントしながらプロポーズすると、最高に決まるかなぁって、アキラに相談したかっただけ」

 頭を掻きながら、デレッとした顔で言いきった一ノ瀬に、臥龍岡は怒りで顔面を真っ赤にした。

「く~っ、そんなの自分で、考えればいいじゃない!」

「経験者の意見を、是非とも聞きたかったんだけど」

「おいおい臥龍岡副編集長、そこは怒るところじゃあないぞ。一ノ瀬の一世一代のプロポーズ大作戦に、友人としてきちんとアドバイスしてやらなきゃ、男じゃないよな!」

 芝居がかった笑みを浮かべる編集長が、弾んだ口調でアシストすると、一ノ瀬が何度も頷きながら、臥龍岡を見つめた。デレた表情をやめて、信頼してることを表す視線をビシバシ飛ばされたことで、臥龍岡は苛立ちをどこかにやるしかなかった。

「んもう、しょうがない。一ノ瀬はここぞというときは弱いもんね。仕事が終わったら、居酒屋で作戦会議してやるわよ!」

 先ほどまでのイライラはどこへ――臥龍岡の不機嫌を見事に消し去った一ノ瀬に、編集長は親指をこっそりたてて、自分のデスクに戻った。

「結局、私がいないと一ノ瀬はダメ男なんだから。さぁて、なにが千草ちゃんの心を、ときめかせるかしらん?」

 口ではそんなことを言ってるが、きちんと仕事に勤しむ臥龍岡と、撮影は午後からということで、欠伸をしながら仮眠室に向かう一ノ瀬。ちなみに画像処理など、細かい仕事をちゃっかり放棄してることも、臥龍岡は把握済みだったりする。

 小言を並べて一ノ瀬に無理やり仕事をさせるよりも、集中して片付けさせたほうがクオリティが高いことがわかってる故に、あえて注意を促さない。

 それぞれがムダな争いを避けた編集部に、やっといつもの平穏が訪れたのだった。

おしまい

閲覧と応援、コメントなど、最後までありがとうございました😊
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