偽りの恋人と生贄の三日間
「今日から恋人としてすごしてほしいの」

「いや、聞こえてはいる」

「じゃあお願いね。城内探検、早く早く」

 リコがソファーから立ち上がると、青年、キトエはひざまずいたまま押しとどめるように手を前に出した。

(あるじ)にそんな態度をとることなんてできない」

「その主の命令なんだけど?」

 キトエの表情がさらに困惑を深める。主にそんな態度をとれないというのと、主の命令という葛藤で、『どうすれば』という顔をしている。キトエは心がすぐ表情に出るから可愛い、とリコは笑いをこらえる。

 キトエはリコの護衛の騎士だ。リコが十一歳のときから仕えている。リコが十五、キトエが十九歳だから、四年の付き合いになる。ふたりきりのときは敬語は使わないようにと言ってあるので、キトエは従っている。

 案の定、最初は『主にそんな口の利き方はできません』と困った顔をされたが。

「いくらリコの命令でも、それは」

「わたしが恋人だと不満? わたしのことが嫌い?」

 悲しげにキトエをのぞきこむと、慌てたように顔をそらされた。

「それは、そんなわけ」

「じゃあいいでしょ?」

「そういう問題じゃ」
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