偽りの恋人と生贄の三日間
 ふざけているわけではないと伝わったのか、キトエはリコを仰いで信じられないものを見るような目をしていた。

「今朝ね、鏡を見たら透けてたの。魔力を取られて、段々この世界のものじゃなくなってるんだと思う。鏡に映らないって、吸血鬼みたいだよね」

 思わず笑ってしまった。

 三つ取られると向こうへ行ってしまう。そのうちのひとつが魔力だ。昨日、城に入った瞬間から魔力を取られているから、体が重い。

「だから、最後の思い出でいいから、キトエがわたしを好きじゃなくてもいいから、恋人のふりでいいから……キス、して」

 命を盾にするやり方は、卑怯だ。けれどキトエは命令しても全然恋人同士のように振るまってくれない。

 少しだけ、期待していたのだ。恋人としてすごしてほしいと言ったら、キトエは恥ずかしそうに『リコのことが好きだった』と打ちあけてくれるのではないのかと。それはリコのうぬぼれだった。キトエはリコの騎士として、従者として、変わらなかった。想いが通じ合わないと分かったから、冗談のように迫ることしかできなかった。

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