偽りの恋人と生贄の三日間

もっと一緒にいたかった

 多分、キトエからは不出来な、泣きそうな微笑みに見えていた。



 小さなこの国には風習がある。十年に一度ほど、神に生贄を捧げる。結界の張られた辺境の城で、生贄は三日間神と波長を合わせたのち、城の頂上から花畑へ身を投げる。城に入れるのは生贄と付き人がひとりだけ。

 選ばれるのは大抵魔女と疎まれる魔力の強い少女だった。だからリコはこの風習を言い伝えに乗じた合法の人殺しだと思っていた。城の結界などというものはなく、行けばどうにかして逃げられる方法があるだろうと信じていた。

 けれど城の結界は本物で、入ったら赤い光の壁に阻まれて出ることができなかった。おまけに入ったときから『何か』とつながって、魔力を吸い取られていく感覚があった。

 神は本当にいるのか、それともとがめられることなく人を殺せるように作った呪いなのか、どちらなのかは分からない。

 生贄になるのを拒めば神への冒涜として殺される。城での三日間ののち、生贄が生きていても確認に来た者たちに神への冒涜として殺される。その場合は付き人も同罪で殺される。生贄に選ばれた時点で、どうあがいても死が確定している。

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