偽りの恋人と生贄の三日間
キトエが困っている。キトエは優しいのだ。おかしくなって、そうしてふと胸を握り潰されるような感情が襲ってくる。
「お願い。三日だけだから」
微笑んだつもりだったが、笑いきれていなかったかもしれない。リコを仰いだキトエの表情が、こわばって揺れる。こんなことを言うのはずるいのかもしれないが、ごまかすように「ね?」と笑っておいた。今度はちゃんと笑えたはずだ。
キトエは目を伏せて、リコを見つめて、「分かった」と呟いた。
「ありがとう。じゃあ城内探検、行こうか」
キトエが立ち上がる。ふわりと風に香るのは、革や剣を手入れするときに使うみつろうと油の香りで、リコはほんのり甘いその香りが好きなのだった。
「うわあ、キトエ、すごい」
リコは玄関から庭へ駆け出す。スカートから伸びた鎖に留められた宝石たちが、しゃらしゃら音をたてる。長い薄桃色の髪と鎖を編みこんだ左右の三つ編みもぱたぱた跳ねる。
どこまでも続く、つき抜けた昼の空と同じ水色をした花畑。五枚の花弁をもつ小さな花が、ずっと広がっている。