偽りの恋人と生贄の三日間
「イグニト」
真紅の炎がキトエへほとばしる。
不意に響き渡った冷たく硬い破壊音に驚いて、音のほうを仰ぐ。
見上げた天井には、つき抜ける水色の空。赤、緑、青、黄、砕けた鮮やかな色ガラス。角度で変わるきらめきをまとって、降ってくる。
弾いた魔力が天井を壊してステンドグラスを割ったのだ。体が重い。イグニトの反動で魔力が撃てない。よけられない。
鋭い光をもって注いでくる色ガラスは、ただ美しい。
「リコ!」
声に意識を引き戻される。リコのもとへ駆けるキトエの前に、真紅の炎。キトエの剣が炎を斬る。剣にまとわりついた炎はキトエを包みこみ真紅の火柱をあげる。
叫べなかった。凍った喉と体で、きつく目を閉じた。
背中に衝撃があって咳こんだ。けれどそれ以上の痛みがない。
ゆっくりとひらいた視界の先にはキトエが、いた。仰向けに倒れたリコに覆いかぶさっていた。うつろな瞳に見下ろされて、キトエが崩れ落ちてくる。かかった体の重みから抜け出して、リコはキトエの横に座る。