偽りの恋人と生贄の三日間
 キトエの背や脚や腕のただれと刺し傷は薄まっていた。けれど傷口の血も水疱の痕も残っていて、完治させられなかった。

 自分で追いこんでおいて、愚かなのはリコだ。分かっている。一番大切なときに魔力が尽きる自分は、さっさと城の頂上から飛び降りておくべきだったのだろう。

 キトエが体の横に手をついて、上体を起こす。顔を見られなかった。

「リコ、怪我は」

「してるわけ、ない」

「よかった」

 あまりにも柔らかい声で、顔を上げてしまった先には座りこんだキトエが、仕方がなさそうに微笑んでいた。頬に残る赤と水疱の痕に、リコは自分をひっぱたきたくなる。

「傷、全部治せてないのに」

「もう痛くないよ。騎士団のときの嫌がらせのほうがよっぽど痛かった」

「ばか」

 ばかなのはリコだ。けれどキトエも大概だ。

「ばかげてるのかもしれないけど、俺の命はリコのものだ。俺の命はリコを守るためにあるし、リコに殺されるなら本望だ」

 息が止まりそうになった。飾りのない瞳に、あまりにもまっすぐな重みに、耐えきれず顔を伏せた。首を横に振る。

「違うよ。わたしに命をかける価値なんてない」

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