偽りの恋人と生贄の三日間

触れたかった

 本当の絶望で恐怖を塗り潰したいのなら、純潔を奪えという命令ではなく、好きと伝えて拒絶されればよかった。それなのに、本心を伝えて心の底から絶望するのを避けた。身勝手な心で、キトエに深い傷を負わせた。リコも心の底から絶望するべきだ。

「恋人としてすごしてって言ったのも、キスしてって言ったのも、純潔を奪ってって言ったのも、全部本当だった。キトエの命がわたしのものなら、わたしは神だか呪いだか分からないものになんかじゃなく、キトエに、触れてほしかった」

 キトエのあまりにも驚いた顔がおかしくて、小さく笑ってしまった。

「でも、ごめんなさい。押しつけて、傷付けて。キトエにとってわたしは主で、それ以上でも以下でもない。好きじゃない人と手をつないだりしたくなかったよね。ましてや好きでもない人の純潔を奪えだなんて、そんな気持ち悪いことできるはずない……」

 隠してきた本心が、自分の言葉が、自分の心を傷付ける。けれどキトエはもっと痛かったのだ。リコの身勝手で理不尽な傷を負ったのだ。

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