偽りの恋人と生贄の三日間
「うそじゃない」

「うそ」

「リコ」

 頬に、耳に、キトエの指先が触れる。近付けられた唇が、触れ合う。すくんだ体をきつく抱きしめられて、息が止まった。

 離れたキトエの顔を、ただ見つめる。

「ずっと、こうしたかった。リコに、触れたかった」

 痛みをいっぱいに広げて、キトエは微笑んだ。

 リコもキトエも、ばかだ。もっと早く伝えていれば、それだけでよかったのに。

「キトエ、キトエ、好き」

 壊れたように、涙があふれてくる。止まらない。キトエにすがりついて、子どものように声をあげて、泣いた。

「ばかっ……キトエもっわたしもっ……もっとっ早く……」

 嬉しいのか、つらいのか、悲しいのか、ぐしゃぐしゃになって分からない。混ざり合った涙があとからあとからあふれてきて、頬を流れ落ちる。瞳からこぼれ落ちる。

 キトエの手が、髪を、背を撫でてくれる。そんな幼子にするようなたわいない触れ合いが悲しくて嬉しくて、涙になってあふれる。

「キ、トエ、キトエ、キトエ」

 顔を上げた。キトエの髪が、眉が、瞳が、頬が、唇が、震えて揺らめく。

 キトエも、泣いているのだろうか?
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