偽りの恋人と生贄の三日間
 無意識に弱めていた魔力を強めた。薄紫の帯と赤い光の壁が弾き合ってこすれる音、体の内側からちぎられて外に出てくる痛みに、自分のものとは思えない声が喉から出てくる。揺れているのが自分なのか大地なのか分からない。

 きつく、つないだ手を壊してしまうくらい握りしめる。体を折っても逃れられない。痛みからまだ魔力を抑えている。全部、体が吹き飛んでも、全力を。

 雷鳴がとどろくがごとく薄紫の光が赤い光を押し返す。風の渦に体が突き飛ばされる。握りしめた手が、指が、ほどけそうに。

 手をきつく握り直されて、引き戻されるように肩から、背を抱きしめられる。薄紫の光の中で、とても近くで、強く見つめられた。

「もう絶対離さない、何があっても!」

 風の音を越えて、染みこんでくる。

(そうだね。どこまでも一緒だね)

 涙があふれてくる。

「ありがとう」

 息の上がった、か細い声だったから、届かなかったかもしれない。歪みそうになる顔で、思いきり、笑った。

 あまたの生贄を殺してきた呪縛よ。

 わたしは、キトエと生きる。

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