偽りの恋人と生贄の三日間
耳をつんざく大木をなぎ倒すような音とともに、赤い光の壁に亀裂が入る。広がっていく。
薄紫色の中で、ガラスが割れるように、赤い光が砕け散った。
たゆたう薄紫から、赤い欠片がゆっくりと降ってくる。うそのように、静寂に包まれる。
呆然と仰いでいたら、抱きしめられて、その腕が痛いほど強くて、力の入らない体をよじる。
「痛い、キトエ」
気付いたように腕が緩んで、キトエの顔を見ると、瞳いっぱいに涙が浮かんでいた。濡れた黄緑の瞳は虹色が大きく揺らめいて、何て綺麗なのだろう、と場違いにも思ってしまった。
キトエの綺麗な顔がぎゅっと崩れて、金の翼に水色の宝石が下がったピアスが揺れる。また抱きしめられて、キトエの背を抱きしめ返した。
割れた満月が浮かぶ紺の空に、赤い光が降る。
「ありがとう」
今度はちゃんと、届いたはずだ。
空の群青が薄くなり始めている。
リコは眼下に目をやった。渦巻く切り立った岩肌の道で、道とは呼べないほど凹凸が激しく、傾斜が強く、ふたり並べるかという幅しかない。城を出てここまで登ってきた風景は、らせんのようだった。
薄紫色の中で、ガラスが割れるように、赤い光が砕け散った。
たゆたう薄紫から、赤い欠片がゆっくりと降ってくる。うそのように、静寂に包まれる。
呆然と仰いでいたら、抱きしめられて、その腕が痛いほど強くて、力の入らない体をよじる。
「痛い、キトエ」
気付いたように腕が緩んで、キトエの顔を見ると、瞳いっぱいに涙が浮かんでいた。濡れた黄緑の瞳は虹色が大きく揺らめいて、何て綺麗なのだろう、と場違いにも思ってしまった。
キトエの綺麗な顔がぎゅっと崩れて、金の翼に水色の宝石が下がったピアスが揺れる。また抱きしめられて、キトエの背を抱きしめ返した。
割れた満月が浮かぶ紺の空に、赤い光が降る。
「ありがとう」
今度はちゃんと、届いたはずだ。
空の群青が薄くなり始めている。
リコは眼下に目をやった。渦巻く切り立った岩肌の道で、道とは呼べないほど凹凸が激しく、傾斜が強く、ふたり並べるかという幅しかない。城を出てここまで登ってきた風景は、らせんのようだった。