偽りの恋人と生贄の三日間
 夜が明ければ、見届け人と神官が生贄の生死を確認しに城へやって来る。その前にできるだけ遠くへ。ひとまず隣国を目指していた。水と食料をできるだけつめこみ、風よけとして城のリネンやカーテンを持ってきた。遠回りになってしまっても、追手がかかりにくい険しい道を選んだ。

 かたわらのキトエが地図をたたんで見つめてくる。

「疲れてないか?」

「平気だよ。魔力で補ってるぶん、キトエより疲れない。まだまだ先は長いのに、そんなに何度も聞かなくていいよ」

 変わらず主に過保護でいてくれて、笑ってしまった。登りながら、キトエが気まずそうに視線を外す。

「リコは最初から逃げられるって考えてたのか? その……ああいう方法で」

「ああいう方法って?」

 キトエをのぞきこむと、思いきり顔をそらされた。羞恥にとらわれた横顔が見える。どちらが乙女か分かったものではない。

 意地悪をするのはこのくらいにして、前を向く。純潔を失わせて生贄の資格をなくし、神か呪いかとのつながりを断ち切って魔力を戻したことだろう。

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