偽りの恋人と生贄の三日間
 キトエの腕をきつくつかんでしまうと、唇が離れた。間近で、綺麗に頬を染めたキトエが、からかうように微笑む。

「今ので、お願いふたつぶん」

 キトエはカードで二回勝っていたから、お願いはふたつ余っていたのだ。してやられたようで悔しくて、今しがたの感覚が蘇ってきて目を見られなくて、思いきり顔をそむけた。

 目を向けた先の空に、息をのんだ。

「キトエ。見て、すごい」

 地平から出た橙の日の上に雲があって、雲から光の帯が幾本も天へ伸びていた。雲から降り注ぐ光の帯は見たことがあるが、天を指すものは初めて見た。

 吉兆か、凶兆か。けれど意味などないのだろう。人が意味を持たせるだけで、この幻想のような光景は、ただ幻想のように美しいという事実しかないのだから。

「綺麗だな」

「うん。綺麗」

 紺の地平、橙の日と、青灰の雲、雲から青い天へ昇る白い光の帯。絵画のような、けれどたしかに目の前にある光を、覚えておこうと見つめた。

「キトエ、そろそろ行かないと」

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