彷徨う羽
 9月の第2週、夜のフライトで宏はアメリカへ発った。

 洋輔はまだ北海道から帰らない。長いツーリングから帰る時は、到着予定を電話か葉書で知らせて来るはず。
 来週からは後期授業が始まる。卒論も佳境だ。秋にはゼミの新入学生の面接もある。

 明日から授業が始まると言う日の夜、洋輔から電話があった。
「今、青森に居るよ。夜行で帰る。明日の朝上野に着くよ」
 と元気の良い声だ。私は、
「そう、わかった」
 とだけ言い電話を切った。
 洋輔は受話器をみつめて腹を立てているだろう。今、電話をかけたのが自分の居るべき場所でなくなったのを知らずに。
 泰彦に電話をした。泰彦に上野まで迎えに行ってもらう。道々起きたことを洋輔に話してもらうことになっている。
「私のこと、うーんと悪く言って良いわ」
 泰彦は低く「うん」と言った。

 次の夜、泰彦から電話があった。
「洋輔の奴、荒れてるよー。お前がそんな風に考えてたなんてちっとも気付かなかったって。謝りたいって言ってたんだけどさ、俺はさ、どっちかが冷めたら終わりって思ってるから、無駄だって言っといた」
「そうね、どうもありがとう」
「お前と話しにくくなるのはイヤだからな。今まで通りで居てくれよ」
「うん、わかってる」
 そんなライトな泰彦が大好き。
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