【コミカライズ】拝啓 隣国の皇太子様、溺愛演技が上手すぎです!
とはいえ、『わたしが先に浮気をした』と思われる事態は避けなければならない。
悪いのはあくまでもネイサン。こちらが悪者になっては、バルディヤ様にも迷惑が掛かってしまうからだ。
だからこそ、恋人の振りをする前に、周りに婚約破棄の事実が知れ渡るのを待つ必要があったのだけど。
「待つまでもない。本当に一瞬だったわね」
わたし達が教室に戻ると、既に婚約破棄は周知の事実だった。どうやら、ネイサンとサブリナが積極的に吹聴して回ったらしい。
一体何があったの? と尋ねてくるクラスメイト達の話を聞きながら、沸々と怒りが湧き上がってくる。
『サブリナは僕の妃になるんだ。丁重に扱ってくれよ』
そう口にしていたらしいネイサンのどや顔が目に浮かぶ。心の底から殴り飛ばしてやりたいと思った。
「まあまあ、お陰で俺も待たなくて良くなったし」
そう口にして、バルディヤ様が微笑む。熱っぽい瞳でわたしを見つめ、まるで宝物のようにわたしの手を握りながら。
「それは……その…………」
正直、まだ早いんじゃないかな? と思いつつ、この場でそんなことを打ち合わせるわけにもいかない。戸惑いながらバルディヤ様を見つめれば、彼はビックリするぐらい甘やかな笑みを浮かべた。
「好きだよ、ニコル」
「!?」
周りにも聞こえるぐらいの声音で、バルディヤ様が口にする。驚きのあまり、椅子から転げ落ちそうになってしまった。わたしだけじゃなく、側に居たクラスメイト達も驚愕に目を見開き、こちらをじっと見つめている。
「こんな日が来るなんて、ネイサンには感謝しなければならないな」
「ちょっと、バルディヤ様……」
「バルディヤ様だなんて他人行儀な呼び方は止めてくれ。バルと気軽に呼んで欲しい。俺は君の恋人なのだから」
普段は行儀良くしているクラスメイト達も、さすがに黙っていられなかったらしい。周囲が大いに騒めいた。
「バルディヤ様! あの」
「バル」
バルディヤ様はそう言って、真剣な眼差しでこちらを見つめる。
(どうしよう)
友人として接していた時とは大違い。恋人と言っても、こんなあからさまな態度を求めていたわけじゃないし、正直戸惑ってしまう。
「ニコル?」
だけど、バルディヤ様は期待に満ちた表情で、わたしを待っている。
いやいや、演技上手すぎでしょう? 王族皇族って演技指導までされるわけ?
これじゃあまるで、本気で好かれているみたいじゃない。自分から恋人の振りをお願いしたのに、勘違いしそうになってしまう。
でもなぁ――――呼ぶまでこの状態が続くんだろうな。
「バル……様」
なんとかそう口にすれば、バルディヤ様はパッと瞳を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。ニコル、とわたしの名前を呼びながら、ビックリするぐらい美しい顔を綻ばせる。
「本当に、ニコルと恋人になれたんだな」
あまりにも嬉しそうな声音。心臓が早鐘を打つ。
ねえ、何て返せば良いの? 周りの目があるし「そうだね」って言うのが正解だって分かってるけど、なんか――――――なんとなく、それじゃダメな気がする。
「あの……お二人は恋人同士になられたのですか?」
ついに我慢が出来なくなったのだろう。クラスメイトの一人がそう尋ねてくる。
「えっと……」
「俺がニコルに一方的に想いを寄せているんだ」
バルディヤ様がそう答える。驚くわたしを余所に、彼はそっと目を細めながら、クラスメイトへと向き直った。
「今は未だ他の男のことを考えられないと言うニコルに無理を言った。仮でも良いから恋人にしてほしいと頼み込んだんだ」
「え……?」
ちょっと待って、バルディヤ様! そんな設定、さっきの打ち合わせの時にはありませんでしたけど!?
そもそも、打ち合わせらしい打ち合わせはしていないけれども! それにしたってあんまりだ。だってこれじゃ、何かあった時にバルディヤ様が一方的に悪くなってしまうじゃない。
「バルディヤ様、それは」
「ニコルが好きで、堪らなかった。婚約を解消したと知って、我慢できなかった。どうしても恋人になりたかったんだ」
待って。
バルディヤ様、演技が上手すぎだってば。
お願いしたのはわたしの方だけど、言葉も表情も予想以上。というか、『彼の恋人』というネームバリューがあればわたしはそれで良かったのに。
偽りの恋人。偽りの感情。そうと分かっていても、胸がドキドキして堪らなかった。
悪いのはあくまでもネイサン。こちらが悪者になっては、バルディヤ様にも迷惑が掛かってしまうからだ。
だからこそ、恋人の振りをする前に、周りに婚約破棄の事実が知れ渡るのを待つ必要があったのだけど。
「待つまでもない。本当に一瞬だったわね」
わたし達が教室に戻ると、既に婚約破棄は周知の事実だった。どうやら、ネイサンとサブリナが積極的に吹聴して回ったらしい。
一体何があったの? と尋ねてくるクラスメイト達の話を聞きながら、沸々と怒りが湧き上がってくる。
『サブリナは僕の妃になるんだ。丁重に扱ってくれよ』
そう口にしていたらしいネイサンのどや顔が目に浮かぶ。心の底から殴り飛ばしてやりたいと思った。
「まあまあ、お陰で俺も待たなくて良くなったし」
そう口にして、バルディヤ様が微笑む。熱っぽい瞳でわたしを見つめ、まるで宝物のようにわたしの手を握りながら。
「それは……その…………」
正直、まだ早いんじゃないかな? と思いつつ、この場でそんなことを打ち合わせるわけにもいかない。戸惑いながらバルディヤ様を見つめれば、彼はビックリするぐらい甘やかな笑みを浮かべた。
「好きだよ、ニコル」
「!?」
周りにも聞こえるぐらいの声音で、バルディヤ様が口にする。驚きのあまり、椅子から転げ落ちそうになってしまった。わたしだけじゃなく、側に居たクラスメイト達も驚愕に目を見開き、こちらをじっと見つめている。
「こんな日が来るなんて、ネイサンには感謝しなければならないな」
「ちょっと、バルディヤ様……」
「バルディヤ様だなんて他人行儀な呼び方は止めてくれ。バルと気軽に呼んで欲しい。俺は君の恋人なのだから」
普段は行儀良くしているクラスメイト達も、さすがに黙っていられなかったらしい。周囲が大いに騒めいた。
「バルディヤ様! あの」
「バル」
バルディヤ様はそう言って、真剣な眼差しでこちらを見つめる。
(どうしよう)
友人として接していた時とは大違い。恋人と言っても、こんなあからさまな態度を求めていたわけじゃないし、正直戸惑ってしまう。
「ニコル?」
だけど、バルディヤ様は期待に満ちた表情で、わたしを待っている。
いやいや、演技上手すぎでしょう? 王族皇族って演技指導までされるわけ?
これじゃあまるで、本気で好かれているみたいじゃない。自分から恋人の振りをお願いしたのに、勘違いしそうになってしまう。
でもなぁ――――呼ぶまでこの状態が続くんだろうな。
「バル……様」
なんとかそう口にすれば、バルディヤ様はパッと瞳を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。ニコル、とわたしの名前を呼びながら、ビックリするぐらい美しい顔を綻ばせる。
「本当に、ニコルと恋人になれたんだな」
あまりにも嬉しそうな声音。心臓が早鐘を打つ。
ねえ、何て返せば良いの? 周りの目があるし「そうだね」って言うのが正解だって分かってるけど、なんか――――――なんとなく、それじゃダメな気がする。
「あの……お二人は恋人同士になられたのですか?」
ついに我慢が出来なくなったのだろう。クラスメイトの一人がそう尋ねてくる。
「えっと……」
「俺がニコルに一方的に想いを寄せているんだ」
バルディヤ様がそう答える。驚くわたしを余所に、彼はそっと目を細めながら、クラスメイトへと向き直った。
「今は未だ他の男のことを考えられないと言うニコルに無理を言った。仮でも良いから恋人にしてほしいと頼み込んだんだ」
「え……?」
ちょっと待って、バルディヤ様! そんな設定、さっきの打ち合わせの時にはありませんでしたけど!?
そもそも、打ち合わせらしい打ち合わせはしていないけれども! それにしたってあんまりだ。だってこれじゃ、何かあった時にバルディヤ様が一方的に悪くなってしまうじゃない。
「バルディヤ様、それは」
「ニコルが好きで、堪らなかった。婚約を解消したと知って、我慢できなかった。どうしても恋人になりたかったんだ」
待って。
バルディヤ様、演技が上手すぎだってば。
お願いしたのはわたしの方だけど、言葉も表情も予想以上。というか、『彼の恋人』というネームバリューがあればわたしはそれで良かったのに。
偽りの恋人。偽りの感情。そうと分かっていても、胸がドキドキして堪らなかった。