【コミカライズ】拝啓 隣国の皇太子様、溺愛演技が上手すぎです!
(あと二週間かぁ……)
一人校庭を歩きつつ、わたしは静かにため息を吐く。
二週間後、バルディヤ様は帰国する。着々と近付くタイムリミット。彼に恋人の振りをお願いしてから、これまで以上に時間が経つのを早く感じる。
(二週間経ったら、バル様には会えなくなってしまうのか――――)
そこまで考えて、はたと気づいた。
ちょっと待って。そうじゃない。そうじゃないでしょう?
だって、バルディヤ様にはネイサンを見返すために、恋人の振りをお願いしているだけだもの。わたしが考えるべきは『あと二週間で、どうやってネイサンをぎゃふんと言わすか』の方だ。そうじゃなきゃ、折角協力してくれてるバルディヤ様に申し訳が立たない。目的を見失うなんてどうかしている。しっかりしなくちゃ。
そもそも、バルディヤ様に会えなくなることを寂しがる権利なんてわたしにはない。だって、わたし達は恋人の振りをしているだけなんだもの――――。
「バルディヤ様!」
その時、男心を擽る高く愛らしい声音が聞こえてきて、わたしは思わず物陰に身を潜めた。
「――――サブリナ嬢、だったかな?」
バルディヤ様の声だ。わたしと接している時とは違い、少々他人行儀な話し方に聴こえる。
(サブリナ嬢ったら、一体何の用かしら?)
あの二人に元々接点は無かった筈。それなのに、いきなり呼び止めるだなんて、一体……。
「わたくし、我が国の第一王子ネイサン殿下の妃になる予定ですの。貴国とは親交も深く、これから顔を合わせる機会も多いかと思いまして、どうしてもご挨拶を差し上げたかったのです」
サブリナはそう言ってニコリと微笑む。可憐な笑み。けれど、彼女はほんの僅かに視線を動かすと、口の端を吊り上げた。
(――――気づいている)
わたしがここに居ること。知っていて、彼女はバルディヤ様に声を掛けたらしい。
サブリナはバルディヤ様の胸元に手を置き、甘えるように擦り寄った。
「是非、仲良くしていただきたいですわ。公の場でも、それ以外の場所でも」
愛らしい――――けれど妖艶な笑み。心臓が嫌な音を立てて鳴り響く。
(止めて)
バルディヤ様に触らないで。そう言いたいのに、あまりのショックに声が出ない。
どうして? どうして彼に手を出すの?
ネイサンが居るのに――――ネイサンだけじゃ足りないの?
嫌だ。
バルディヤ様があの子に微笑むのが。わたしにするみたいに触れるのが。
お願いだから、優しくしないで――――。
「無理だ」
「……え?」
いつになく厳しいバルディヤ様の口調に、わたしもサブリナも目を見開く。
「君とだけは仲良くできない。君は俺の大切な女性を――――ニコルのことを傷つけた。謝罪もせず、まるで彼女が悪いかのように感じさせた。許すつもりはない。今後は俺を見掛けても、二度と声を掛けないで欲しい」
「そっ、そんな……! けれど、それでは」
「貴国の王に対しては、ネイサンが婚約者を裏切り、君のような女性を妃に迎えようとしていることについて、既に苦言を呈している。我が国との外交にも差支えがあると明言をした――――失礼する」
サブリナが唇をワナワナと震わせる。悔しさのせいだろう。頬が真っ赤だ。
「……っ!」
彼女はわたしが居ることを思い出したらしく、勢いよく踵を返した。
一人校庭を歩きつつ、わたしは静かにため息を吐く。
二週間後、バルディヤ様は帰国する。着々と近付くタイムリミット。彼に恋人の振りをお願いしてから、これまで以上に時間が経つのを早く感じる。
(二週間経ったら、バル様には会えなくなってしまうのか――――)
そこまで考えて、はたと気づいた。
ちょっと待って。そうじゃない。そうじゃないでしょう?
だって、バルディヤ様にはネイサンを見返すために、恋人の振りをお願いしているだけだもの。わたしが考えるべきは『あと二週間で、どうやってネイサンをぎゃふんと言わすか』の方だ。そうじゃなきゃ、折角協力してくれてるバルディヤ様に申し訳が立たない。目的を見失うなんてどうかしている。しっかりしなくちゃ。
そもそも、バルディヤ様に会えなくなることを寂しがる権利なんてわたしにはない。だって、わたし達は恋人の振りをしているだけなんだもの――――。
「バルディヤ様!」
その時、男心を擽る高く愛らしい声音が聞こえてきて、わたしは思わず物陰に身を潜めた。
「――――サブリナ嬢、だったかな?」
バルディヤ様の声だ。わたしと接している時とは違い、少々他人行儀な話し方に聴こえる。
(サブリナ嬢ったら、一体何の用かしら?)
あの二人に元々接点は無かった筈。それなのに、いきなり呼び止めるだなんて、一体……。
「わたくし、我が国の第一王子ネイサン殿下の妃になる予定ですの。貴国とは親交も深く、これから顔を合わせる機会も多いかと思いまして、どうしてもご挨拶を差し上げたかったのです」
サブリナはそう言ってニコリと微笑む。可憐な笑み。けれど、彼女はほんの僅かに視線を動かすと、口の端を吊り上げた。
(――――気づいている)
わたしがここに居ること。知っていて、彼女はバルディヤ様に声を掛けたらしい。
サブリナはバルディヤ様の胸元に手を置き、甘えるように擦り寄った。
「是非、仲良くしていただきたいですわ。公の場でも、それ以外の場所でも」
愛らしい――――けれど妖艶な笑み。心臓が嫌な音を立てて鳴り響く。
(止めて)
バルディヤ様に触らないで。そう言いたいのに、あまりのショックに声が出ない。
どうして? どうして彼に手を出すの?
ネイサンが居るのに――――ネイサンだけじゃ足りないの?
嫌だ。
バルディヤ様があの子に微笑むのが。わたしにするみたいに触れるのが。
お願いだから、優しくしないで――――。
「無理だ」
「……え?」
いつになく厳しいバルディヤ様の口調に、わたしもサブリナも目を見開く。
「君とだけは仲良くできない。君は俺の大切な女性を――――ニコルのことを傷つけた。謝罪もせず、まるで彼女が悪いかのように感じさせた。許すつもりはない。今後は俺を見掛けても、二度と声を掛けないで欲しい」
「そっ、そんな……! けれど、それでは」
「貴国の王に対しては、ネイサンが婚約者を裏切り、君のような女性を妃に迎えようとしていることについて、既に苦言を呈している。我が国との外交にも差支えがあると明言をした――――失礼する」
サブリナが唇をワナワナと震わせる。悔しさのせいだろう。頬が真っ赤だ。
「……っ!」
彼女はわたしが居ることを思い出したらしく、勢いよく踵を返した。