【コミカライズ】拝啓 隣国の皇太子様、溺愛演技が上手すぎです!
右手を包む大きな温もり。初めはあんなにも戸惑っていたのに、この一ヶ月ですっかり当たり前になってしまった。
だけど、あと三日でそれも終わり。
バルディヤ様は国に帰ってしまう。
(どうしよう)
寂しくて、苦しくて堪らない。
彼に会えなくなることが。こうして手を繋げなくなることが。
この間、バルディヤ様はわたしを色んな場所に連れて行ってくれた。
本来、皇族である彼の行動範囲は狭い筈。けれど彼は、行きたい場所に行き、したいことをするのだと口にした。
流行りのカフェに仕立屋、馬で遠乗りに出掛けたこともあった。
世の中にこんなに楽しい場所、時間があるなんて知らなかった。時間が惜しいと思ったのは生まれて初めてだった。
こんなにもわたしは――――
「ニコル」
久方ぶりに聞く声に顔を上げる。
見ればそこには、元婚約者であるネイサンが立っていた。
「殿下……」
「話がしたいんだ。君と二人きりで」
苦し気な表情。ネイサンの声は震えている。
「だけど――――」
「行っておいで」
バルディヤ様がそう言って微笑む。その途端、胸がズキンと痛んだ。
わたしに悲しむ資格なんてない。分かってはいるのだけど。
「俺はここで待ってるから、行っておいで」
そう言って優しく背中を押される。躊躇いながら、わたしはネイサンの元に向かった。
「やり直してほしいんだ」
「……え?」
開口一番、ネイサンはそう口にした。彼はわたしの手を取り、切なげに目を細める。
「俺と最初から、やり直してほしい。俺の妃はニコルだけだ」
全く想像していなかった事態。わたしは大きく息を呑む。
「お待ちください。サブリナ嬢のことは? 一体どうしたのです?」
「彼女とは別れた。
僕は馬鹿だった。ニコルは素晴らしい女性なのに……そのことにちっとも気づかず、君のことを傷つけてしまった。離れて初めて分かったよ。僕にはニコルが必要なんだ。一生側に居て欲しい女性はニコルだけだって」
ネイサンはそう言って、真っ直ぐわたしのことを見つめる。
ずっと待ち望んでいた言葉。
その筈なのに、不思議と全く嬉しいと思わない。
わたしが隣に居て欲しい人はもう、ネイサンじゃない。一生を共にしたい人は、彼以外の人なんだって思い知った。
「今すぐ返事をしろとは言わない。
だけど、彼とは――――君はバルディヤに一方的に好意を寄せられているだけなのだろう?」
「違っ――――」
「彼はもうすぐ国に戻るし、君達は将来の約束をしているわけでは無い。彼と共に生きる未来は存在しない。そうだろう?」
それは――――ネイサンの言う通り。
わたし達はあくまで偽りの恋人。
バルディヤ様がわたしに一方的に懸想している――――そういう設定。
だけど、想いを寄せているのはバルディヤ様じゃない。わたしの方だ。
この一ヶ月の間に、わたしは彼のことが好きになってしまった。演技じゃなくて、本気で。
だけど、側に居たいなんて言えない。これから先も一緒に居たいだなんて、とても。
「だったら、僕のところに戻ってきて欲しい。……待ってるから」
ネイサンはそう言って踵を返した。
だけど、あと三日でそれも終わり。
バルディヤ様は国に帰ってしまう。
(どうしよう)
寂しくて、苦しくて堪らない。
彼に会えなくなることが。こうして手を繋げなくなることが。
この間、バルディヤ様はわたしを色んな場所に連れて行ってくれた。
本来、皇族である彼の行動範囲は狭い筈。けれど彼は、行きたい場所に行き、したいことをするのだと口にした。
流行りのカフェに仕立屋、馬で遠乗りに出掛けたこともあった。
世の中にこんなに楽しい場所、時間があるなんて知らなかった。時間が惜しいと思ったのは生まれて初めてだった。
こんなにもわたしは――――
「ニコル」
久方ぶりに聞く声に顔を上げる。
見ればそこには、元婚約者であるネイサンが立っていた。
「殿下……」
「話がしたいんだ。君と二人きりで」
苦し気な表情。ネイサンの声は震えている。
「だけど――――」
「行っておいで」
バルディヤ様がそう言って微笑む。その途端、胸がズキンと痛んだ。
わたしに悲しむ資格なんてない。分かってはいるのだけど。
「俺はここで待ってるから、行っておいで」
そう言って優しく背中を押される。躊躇いながら、わたしはネイサンの元に向かった。
「やり直してほしいんだ」
「……え?」
開口一番、ネイサンはそう口にした。彼はわたしの手を取り、切なげに目を細める。
「俺と最初から、やり直してほしい。俺の妃はニコルだけだ」
全く想像していなかった事態。わたしは大きく息を呑む。
「お待ちください。サブリナ嬢のことは? 一体どうしたのです?」
「彼女とは別れた。
僕は馬鹿だった。ニコルは素晴らしい女性なのに……そのことにちっとも気づかず、君のことを傷つけてしまった。離れて初めて分かったよ。僕にはニコルが必要なんだ。一生側に居て欲しい女性はニコルだけだって」
ネイサンはそう言って、真っ直ぐわたしのことを見つめる。
ずっと待ち望んでいた言葉。
その筈なのに、不思議と全く嬉しいと思わない。
わたしが隣に居て欲しい人はもう、ネイサンじゃない。一生を共にしたい人は、彼以外の人なんだって思い知った。
「今すぐ返事をしろとは言わない。
だけど、彼とは――――君はバルディヤに一方的に好意を寄せられているだけなのだろう?」
「違っ――――」
「彼はもうすぐ国に戻るし、君達は将来の約束をしているわけでは無い。彼と共に生きる未来は存在しない。そうだろう?」
それは――――ネイサンの言う通り。
わたし達はあくまで偽りの恋人。
バルディヤ様がわたしに一方的に懸想している――――そういう設定。
だけど、想いを寄せているのはバルディヤ様じゃない。わたしの方だ。
この一ヶ月の間に、わたしは彼のことが好きになってしまった。演技じゃなくて、本気で。
だけど、側に居たいなんて言えない。これから先も一緒に居たいだなんて、とても。
「だったら、僕のところに戻ってきて欲しい。……待ってるから」
ネイサンはそう言って踵を返した。