【コミカライズ】拝啓 隣国の皇太子様、溺愛演技が上手すぎです!
 残されたわたしは、立ち尽くしたまま胸を押さえる。


(どうしよう……どうしたら良いの?)

「良かったね、ニコル」


 背後からポンと頭を撫でられる。
 振り返ったら、今にも泣きそうな表情のバルディヤ様がそこに居た。


「聞こえていたの?」

「いいや。
だけど、見たら分かる。あいつを――――ネイサンを取り返せたんだろう? 良かったじゃないか」


 バルディヤ様はそう言うけれど、顔が全然笑っていない。言葉と表情がチグハグすぎる。
 どうして? 恋人の振りはあんなにも上手だったのに、一体どうして……。


「これで俺の役目は終わりだな」


 微笑むバルディヤ様。胸が壊れそうな程強く軋む。目頭が熱い。涙が零れ落ちそうになって思わず俯く。


「一か月間楽しかった。ニコルと一緒に過ごせて、すごく幸せだった」


 優しい声音。今にも泣きだしそうな表情。見ているこちらの方が苦しくなってしまう。


「ニコル」


 強く強く抱き締められる。苦しい。だけど身体よりも心の方が、ずっとずっと苦しかった。


「好きだよ、ニコル」


 バルディヤ様が囁く。ゆっくりと、わたしの心に刻みつけるように。


「これからもずっと、ニコルのことが好きだ」


 ああ――――バルディヤ様は嘘吐きだ。
 ずっと、嘘を吐かれていた。
 だって、さっきとは――――『良かったね』って言われた時とは全然違うもの。


(本当は演技、下手糞なんじゃない)


 初めてのキスは二人分の涙の味がした。
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