「俺と噓結婚して欲しいんだ」「みんなを騙すってことですか!?」
無駄に広い廊下を歩いたが、それでも浴室が玄関からさほど離れて居なかったのは幸いだった。
案内されるままに脱衣所に行き、そのままお風呂に入りながら、考える。
好きになる人はいっぱいいるだろうに、ゴミのような私が、その権利を独占するなんて、やっぱり考えれば考える程、間違っていた。
うぅ、リンちゃん……
「あんたの代わりに食べたげるー!」とか、「貸して!それ私がやっといたげるー!」と、いつも部屋に突撃してきたリンちゃんをおぼろげに思いだすと少し星が恋しくなってくる。
さすがに、お風呂とかは代わりに入ったりしなかったけれど、今もリンちゃんが居たなら、
『お見合い? 代わりに出といたげるー!』と走って行って、私が吐いたり湿疹で魘されるようなことも無かったのに。
そうだ! 名案を思い付いた。
誰も見て居ないのをいいことに、一旦ガラス戸を開け、脱衣所の服を漁る。
そしてポケットに入れていたマジックペンを手に、お風呂場に戻った。
「き、た、な、いっと」
洗ったばかりの体のあちこちに、注意書きを書き込んでいく。
なんか綺麗なのか汚いのかいまいちわからなくなってきたが、とりあえず、礼を言って此処から出たあとは、、、どうするか考えてなかったけど、まぁどうにかなるだろう。
とにかく、やってみると思った以上に難しかったということが分かった。
「君の家は調べてあるんだ。お互いに好都合だろ?」
調べてあるのなら、代理の人が全ての言動を司っていることも知っているはずだ。
私が何かすれば、同時に連動してリンちゃんが動く。
だから私はリンちゃんが何かしている姿を眺める方が多くなり、肉体から乖離している。
だけど、リンちゃんはしっかりと意思をもって、絶対に連動してやると思っているので、止められない仕組みだ。
「でも、今、こうして、汚いって書き込んでいるのは、私だけなんだよなぁ」
まるで大人の証。ちょっぴり嬉しくなる。