「俺と噓結婚して欲しいんだ」「みんなを騙すってことですか!?」
「でも、家だって、『彼』のことを知っているだけで、恋愛向きかはわからないわよ」
……それも、そうです。
家に、恋愛感情があるのか。私にはわかりません。
なんでこんな嘘つかなきゃいけないんだ!わかんない!もうヤダ!普通に働かせてください!!
恋愛以外ならしますから。
始まりは私が星から漂着して、この街に住み始めたことでした。
宇宙船が治るまでの間、星のことを知るために、まず家を買って住むことにしたのですが……
保証人なしでも買える家というのが無く、仕方ないのでその辺の草原で寝ていたんです。
それが何日か。
いや、そんな話は別に、良いですね。
翌朝、肩を叩かれて、見上げると、変わり者の池野おばさんが笑顔を向けて立っていました。
そして「とりあえず、世帯があった方が街に馴染めるからお見合いしたら?」と突然、話を持ち掛けて来ました。なぜ、そのとき、異邦人の私にそんな提案をしたのか、この時は知りません。
彼女なりの優しさだったのでしょうか。
それで、第一話の話となります。
しばらく、池野さんのお宅に居て、その後、ややあって、メヌエラさんと知り合い「古い倉庫だけどね」という家の管理代わりにお借りして……
そこで、星空を見ていたり、百科事典を見ていたり。
知らないことを少しでも埋めようとしての行為でもありました。
池野さんはよく、『そういう人の方が都合が良い』という、怪しいお見合い話を持ってきてくれたのですが、
今もまだ、ヒトの暮らしに慣れ切って居ないので、何から何まで知らないことだらけ。
いきなり知らない人に、その知らないことを繕いまくっている日常を知られても、どうしろっていうのでしょう? 何回も断りました。
「で、でも、最近コンロがやっと触れるようになったところなのに、家事のたびに火事のことを思い出さないといけない上に笑顔で愛情を提供するより、
よっぽど給金のこととタスクを考えて事務的にこなす方が精神的に! 優しいと思います……」
神様。
私が、いったい何をしたっていうのでしょう。
どうして、詐欺に加担しながら、ハード過ぎる、精神崩壊しそうなタスクが追加されるのでしょう。いや、さっさと、星に還るのが一番なんですけれど。
「包丁も、やっとまともに直視出来るようになったところだったしね。指示を聞いて、さらに愛想を振りまくなんて、あなたには重い荷かもしれない、けど……」
取り乱す私。メヌエラさんはさすが2500年以上の時を過ごしているだけあってか、落ち着いた動作で私の背に優しく手を置きます。
「いっそのこと、そのお見合いをあえて受けて、恋は気持ちだけじゃ成立しないと、証明してきて差し上げなさい!」
「あえて、受ける……?」
「そ、家に行って、ドジってコンロで火事でも起こして来たら、本当に嫌いになってくれるかも」
「う、うう……それもそれで怖いけど、少なくとも何かやらかせば、二度と詐欺に加担させようなんて言ってこないかもしれないですね! ただ、それは最終手段……家のことが好きなら、家に、好きですと伝えないと、と思うんです」
「何が出来るかどうかなんて、関係ないぞ!」
唐突に言えの窓が開いて、剥げた知らないおじさんが出てきた。
「大事なのは、愛情なんだ!」
「家のことを恋愛対象に思っている人の愛情ですか!?」
家が好きだから、家の為に、私とお見合いするだなんて、なんて自己犠牲なのだろう。
だからこそ、家と幸せになってもらいたい。
「そこじゃないわよ、何他人んちの窓開けてんの!?」 メヌエラさんが驚く。
「ジョギングしていたら話が聞こえたんだよ! お見合いをするらしいな!」