Re:スタート
その日の夕方。

私は思い出に浸りたくなって、寄り道することにした。

行く先は、悠と出会ったあの公園。

今までずっと避けていた公園だったけど、今なら悠との思い出が詰まった公園でも苦しくならない気がする。


公園に悠がいないのは分かっている。

だけど、こんなかたちでしか『おめでとう』を言えないから。

残すことが出来ないから……。


私は公園に足を踏み入れた。

やっぱり公園には誰もいない。

私はあのベンチに向かって歩く。

私はベンチに座らず、地面に落ちていた木の枝を拾った。

しゃがんだ私は、木の枝で砂の地面に文字を書いていく。



『悠へ。オーディション合格、おめ』



そこまで書いた時だった。



「……佳奈?」



後から名前を呼ばれて固まる私。

優しさにあふれたこの声。

今日聞いたばかりのこの声。

忘れもしないこの声。



「佳奈、だよな?」



私はしゃがんだまま、ゆっくりと後ろを振り返る。

そこに立っていたのは間違いなく。
< 136 / 224 >

この作品をシェア

pagetop