Re:スタート
『ハンバーグが食べたい』とか『お風呂入る』とか。

『日付け変わるかもしれないから先寝てていいよ』とか……。

たった一言でもいいから、返信すればよかった。


佳奈が俺にしてくれる気遣い。

それを俺は返すどころか、いつの間にか、それが当たり前だと思っていた。

佳奈の優しさに慣れすぎてしまっていたんだ……。

今更気づいても、遅いよな。


昼は正社員として工場で働き、夜は居酒屋でバイト。

掛け持ちで仕事をしていたら忙しい。

疲れるし、自分に余裕だってなくなってくる。

そんな働き方をしていたのは、歌手になるためにお金が必要だったから。


それだけじゃない。

仕事が出来ない状態の佳奈と、一緒に生活するための生活費だって必要だった。

確かに、1日中働いていれば、体にも精神的にも負担がかかっていた。

だから佳奈にかまってあげる余裕がなかった。


きっと、寂しい思いをしていただろう。

……仕事を言い訳にして、佳奈を放ったらかしにするなんてダメだよな。

そんな簡単なことを今更気づくなんて、俺はどうかしている。
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