Re:スタート
初めて佳奈と会ったあの日。

あれは10月の夜の出来事だった。


俺はギターを弾きながら、将来について考えていた。

歌手になりたい俺。

でも、ボイスレッスンに通うお金もない。

だから、住宅街から離れていて夜でもギターを弾けるこの公園に毎日のように足を運んでいた。

独学で歌手になるしか道はないのか、なんて夢を諦めようとしていた日だった。


公園でひとり、泣いている女の子がいた。

ライトに照らされ泣く女の子は、儚く美しく見えた。

触れてしまえば壊れてしまいそうな、そんな印象だった。


俺は思わず、ポケットに入っていたハンカチを差し出した。

彼女の名前は”佳奈”といった。


ぽつりぽつりと話し始めた佳奈。

職場で理不尽ないじめを受けて、濡れ衣ぬを着せられ、退職届を出したこと。



「それで泣いていたの?」

「ううん。……それは違う」



俺が問うと佳奈は首を横に振った。

それまでうつむいていた佳奈はこちらを見て、小さく微笑んだ。
< 38 / 224 >

この作品をシェア

pagetop