Re:スタート
幸せな思い出はたくさんあった。

だけど、それをかき消してしまうほど寂しい感情も募っていったんだ。


そんな私が出した結論は、悠に別れを告げることだった。

思い返しては、他の方法もあったんじゃないかと落ち込む私とは反対に、にやにやと笑う瑠奈。



「佳奈がいつも私に話してくるのは、悠さんの惚気話だったじゃん」

「まあ……」



それはそうだったけど。

否定ができない私は、グラスに入った麦茶を飲む。



「私が好きな惚気話はやっぱり、“あれ”だよねぇ」

「……“あれ”?」

「社会復帰できなくて泣いていた佳奈にサプライズでケーキ買ってきてくれた、って話!」

「ああ、懐かしいね」



私たちは顔を見合わせて笑う。

今になって悠の惚気話をするなんて思わなかった。

だけど、今だけ。

もう一度、幸せだったあのときの気持ちを思い出したい。



「あの夜はさ、私が仕事探すってことが怖くて泣き疲れて寝ちゃったんだよね」

「また同じ惚気話をするのっ⁉」

「だめ?」

「いいけど。佳奈らしいわ」



瑠奈のツッコミに笑う私。

麦茶を飲みほして、クッションに座りなおす瑠奈。

瑠奈は頬杖をついて、私の話を聞いてくれる。

私も同じく座りなおし、あの日の感情をよみがえらせた。
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