私の隣りに引っ越してきたのは実は先輩でした
「はぁ…カツ丼かぁ…」

結局、私は棚に戻せずに、そのままカツ丼を購入した。

帰りは当然、彼と一緒…というか、私が後ろをトボトボ歩いていただけだけど。

「……………」

「……………」

ゔぅ…何かこの沈黙がやけに緊張する。

かと言って何を話せば良いか分からない。
だから、好きな人が出来ても話せずに終わっちゃう…

友達には「少しくらいアピールしなさい!」って言われるけど、それが出来たら苦労しない。



そんな事を考えていると、あっという間に家の前に着いてしまった。


「じゃあ…おやすみなさい」

それだけ言って、中へ入ろうとした―――

「あのさぁ」

ドアを開けようとしたら、彼の言葉でその手が止まった。

「な、何でしょうか?」

急に声をかけられた為、少し緊張感が走った。

「悪かったよ」

「え?」

思わぬ一言に一瞬、驚いてしまった。

ひょっとして、私をからかった事かな?

意地悪で無愛想かと思ってたけど、案外良い人なのかも?

だったら…

「もう、気にしてませんよ」

私は笑顔で返した。

「そうなのか!?あー良かった!俺、今日は唐揚げの気分だったんだよなー」

ん?何の話?

「あのー…」

「いやーてっきりお前、唐揚げ取られて落ち込んでるかと思ってたから」

「いや…私唐揚げ…」

―――食べたかったのに…

との声は届かず


「そうじゃなくて良かったわ。じゃあな」

彼はそう言ってニコッと笑い、中へ入ってしまった。

「…………」

何だろ…このギャップは…

あれだけクールに淡々と話してたのに、こんな風に喋って、しかも笑うんだ…

私は謝ってきた内容よりも、彼のギャップに…この笑顔にほんの一瞬、惚れてしまった―――
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