掴んだその手を離さないで! 〜優しすぎる幼馴染の絶対愛〜
「お父さん、帰ってるの?」

「今帰ったところなのよ。丁度良かったわね」

リビングに入ると、ソファに父が掛けていた。向かい合わせに宣まで。

「淳兄! こんな時間にどうしたの?
スーツなんて着て改まっちゃって〜」

げっ! 宣ったら、場の雰囲気読んでよ!

「あ、あの! ご無沙汰しています!
倉田淳之介です!」

「淳くん! 久しぶりだね。
どうしたんだい? ネクタイなんて締めて」

……お父さん。
この様子は全く気づいてないな。

クールビズの今、改まった席ではジャケットを着用することはあっても、ネクタイまでは締めない人がほとんどだ。
父もそう。ジャケットは着ていくけど、ネクタイはしていない。

この正装の意味、年頃の娘がいるんだから、普通気づくよね?

「あ、あのっ」

「……この人、ハッキリ言わないと多分気づかないから、さっさと言っちゃった方がいいわよ〜」

母が私達にだけ聞こえるように囁く。

こくっと頷いた淳之介が大声で叫んだ。
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