桜舞いゆく春の日に、君に伝えたいことがある
『きょう、電話できるかな』
『話したいことがある』

ああ、これは振られるやつだ。きっと。
ベッド上でスマートフォンの画面に表示された二件の新着メッセージを見て、とっさに悟る。
枕に顔をうずめると、彼女の笑顔が鮮明に脳裏に浮かんできて胸がちくりといたむ。追憶を遮るように首をふって、写真フォルダを開く。

ツーショット、撮っておけばよかったなあ。
これから振られるのだろうというときに、なんて余裕なんだろうか。自分で自分を鼻で笑いつつ、起き上がって窓の外を覗く。
夕方であるとはいえ、真夏ともなればまだ日が落ちるまで時間があるので明るい。秋みたいな夕暮れ時の寂しさはまだ感じられない。むしろこれから一日が始まっていきそうな感じすらする。

振られる、のか。
実感がわかない。そのわりには、そこまで動揺もしていない。ここ2週間全く連絡をとっていなかったという事実から、僕はこの先の短さを前々から感じ取っていた。だからそこまで落ち込むこともない。
振られるかもしれない、と思うようになってからどうして必死でそれを回避しようとしなかったのかは、きっと僕の弱さだと思う。どうせ無理だ、といういわゆる絶望的な感情が僕に行動することを控えさせた。
彼女に電話ができる旨と都合の良い時間を完結にまとめて送信し、今度は親友とのトーク画面を開く。

『飯田、俺、無事に振られてくるわ』
すぐに既読がつく。暇なのか。
『振られてくるってえ、ちょ、どうしたんだよお前、は』

わかりやすく動揺した文章。だから、振られてくるんだってば。
飯田誠。高校に入って1年目のクラスで仲良くなった。今じゃ何かあれば、いや何かなくても連絡を取り合う仲だ、今年のクラスは離れてしまったけれど。飯田とは思い出がたくさんあるけど、一番、濃いのは。

あれは今年の春、高校1年生というブランドがもうすぐ消費期限をむかえるという時のことだった。


< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop