二枚目俳優と三連休
マジか、と今度は瞬が固まった。高柳が爆笑した。
高柳栄之助は、四十歳の俳優だ。テレビの連ドラにも出るし、舞台でも活躍している。脇役でも主演でもさらりとこなすため、演技派と言われている。甘いマスクというよりも、きりっとした顔立ちで細身だが、筋肉質でもあり、女性ファンは多い。独身だが恋愛報道などは全くない。ファンが高柳の隣を狙うのは当然なのだが、当の高柳は「まあ、なるようにしかなりませんから」と言って恋愛には無頓着な様子をバラエティ番組などでさらしている。
…と、いう高柳についての説明を、さなえは瞬から受けた。
「ゆ、有名な方、なんですね…」
心から感心してさなえは言った。さなえはあまりテレビを見る方ではなく、映画よりも本を読んでいたいタイプなのだ。映画館に行ったのも、随分、前のことになる。
「すんません、高柳さん、俺、さなえが芸能方面にうといの、すっかり忘れてました」
瞬は頭を深々と下げた。高柳は、旨そうに日本酒を口にしている。
「いや、ええって、ええって。俺もガチガチのファンの人とやったら、やりづらいやん。俺のこと知らんのなら、かえって好都合や。さらっとした気分でイタリア語、習えるやん」
あ、とさなえは改めて高柳を見た。そうだ。水ぱしゃから高柳情報にいって話が見えなくなっていたが、元はと言えば、イタリア語を教えるなら有名人に、というのが瞬の話だったのだ。
「じゃ、じゃあ…高柳さんは、イタリア語を勉強したいんですか?」
おずおずとさなえは言った。雲の上の人、と聞いてどんな接し方をしたらいいかわからない。高柳は、間を置かずに、そうや、と言った。
「今度、映画の脇役やるんやけど、昔、イタリアで料理人をやってたっていう役なんや。イタリア人と喋るシーンがあるから、イタリア語を勉強したいんや」
「そのシーンは…長いんでしょうか?」
「いや。セリフは三つだけ。せやけど、いいかげんにはでけへん。ちゃんと、習いたいんや」
高柳の言葉は関西弁のままだったが、ぴりっと引き締まったものだった。
あ、この人、仕事を大事にしてるんだ。さなえは思った。もちろん、今までのキャリアを聞いたら当然かもしれない。けれど、高柳はキャリアを持つが故の傲慢さや、おごりから無縁のように思えた。
当たり前だけど、ちゃんとしてるんだな。
高柳栄之助は、四十歳の俳優だ。テレビの連ドラにも出るし、舞台でも活躍している。脇役でも主演でもさらりとこなすため、演技派と言われている。甘いマスクというよりも、きりっとした顔立ちで細身だが、筋肉質でもあり、女性ファンは多い。独身だが恋愛報道などは全くない。ファンが高柳の隣を狙うのは当然なのだが、当の高柳は「まあ、なるようにしかなりませんから」と言って恋愛には無頓着な様子をバラエティ番組などでさらしている。
…と、いう高柳についての説明を、さなえは瞬から受けた。
「ゆ、有名な方、なんですね…」
心から感心してさなえは言った。さなえはあまりテレビを見る方ではなく、映画よりも本を読んでいたいタイプなのだ。映画館に行ったのも、随分、前のことになる。
「すんません、高柳さん、俺、さなえが芸能方面にうといの、すっかり忘れてました」
瞬は頭を深々と下げた。高柳は、旨そうに日本酒を口にしている。
「いや、ええって、ええって。俺もガチガチのファンの人とやったら、やりづらいやん。俺のこと知らんのなら、かえって好都合や。さらっとした気分でイタリア語、習えるやん」
あ、とさなえは改めて高柳を見た。そうだ。水ぱしゃから高柳情報にいって話が見えなくなっていたが、元はと言えば、イタリア語を教えるなら有名人に、というのが瞬の話だったのだ。
「じゃ、じゃあ…高柳さんは、イタリア語を勉強したいんですか?」
おずおずとさなえは言った。雲の上の人、と聞いてどんな接し方をしたらいいかわからない。高柳は、間を置かずに、そうや、と言った。
「今度、映画の脇役やるんやけど、昔、イタリアで料理人をやってたっていう役なんや。イタリア人と喋るシーンがあるから、イタリア語を勉強したいんや」
「そのシーンは…長いんでしょうか?」
「いや。セリフは三つだけ。せやけど、いいかげんにはでけへん。ちゃんと、習いたいんや」
高柳の言葉は関西弁のままだったが、ぴりっと引き締まったものだった。
あ、この人、仕事を大事にしてるんだ。さなえは思った。もちろん、今までのキャリアを聞いたら当然かもしれない。けれど、高柳はキャリアを持つが故の傲慢さや、おごりから無縁のように思えた。
当たり前だけど、ちゃんとしてるんだな。