二枚目俳優と三連休
さなえは、役者という職業について改めて考えたことがなかった。大勢のファンの期待に応え続けるのは、きっと大変なことなのだろう。
そこまで考えて、はっとした。あの水ぱしゃの時、さっと去ってしまったのは、きっと人から見られたら俳優の高柳栄之助だ、とバレるからだったのだ。逆に言えば、バレそうだからと、水に濡れているさなえを放っておく選択だってあったはずだ。でも、ちゃんと頭ぽんぽんしてくれた。
…人を放っておけないんだ。
高柳は続けた。
「今回の映画が、新人監督の第二弾なんや。低予算で、俺のイタリア語のフォローまで手が回らへん。どっかでさくっとイタリア語習えへんかなあ、とぼやいたら瞬が紹介したい子がおるって言ってな」
そうなんだ、とさなえが瞬を見ると、瞬がドヤ顔をした。
そうして、瞬と高柳がどういう関係なのかも教えてもらった。接点は、フットサルだった。瞬は、持ち前の外見を生かしてファッション誌のモデルをやっている。趣味で楽しんでいるフットサルチームには、モデルやスタイリスト、タレントやミュージシャン、俳優もいる。高柳もその中の一人で、お互いスニーカーのコレクターだとわかると、すっかり意気投合し、それ以来飲み友達なのだそうだ。
「田島のことは、俺が悪かったよ。先走りすぎた。でも、高柳さんは、信頼できる人だから…さなえも喜ぶと思ったんだけど、どうかな?」
瞬が、少し声のトーンを落として言った。大学の同級生の田島を紹介してくれたのも、休日を独りで地味に過ごしているさなえを思いやってのことだった。田島も地味な奴だから、ちょっと会ってみればいいじゃん、と紹介してくれたのだ。
田島とは残念な結果になってしまったが、瞬の厚意は、ありがたいと思う。
瞬ちゃんって子供のときから世話焼きだったからなあ…。幼い頃、野良猫をさなえに抱っこさせようとして、瞬の方が猫にひっかかれたエピソードを思い出し、くすっと笑った。
笑った瞬間に、高柳と目が合った。
さなえはちょっと気持を落ち着かせてから、高柳に改めて向き直った。
「あの。私でよかったら…高柳さんのお力になれれば、と思います。でも、高柳さんがこいつ使えないな、って思ったら、容赦なく切ってください。高柳さんの大事な時間を無駄にするわけにはいきませんから」
ひと息に言って、息を吐いた。
ん、と高柳は、にっこり笑った。
そこまで考えて、はっとした。あの水ぱしゃの時、さっと去ってしまったのは、きっと人から見られたら俳優の高柳栄之助だ、とバレるからだったのだ。逆に言えば、バレそうだからと、水に濡れているさなえを放っておく選択だってあったはずだ。でも、ちゃんと頭ぽんぽんしてくれた。
…人を放っておけないんだ。
高柳は続けた。
「今回の映画が、新人監督の第二弾なんや。低予算で、俺のイタリア語のフォローまで手が回らへん。どっかでさくっとイタリア語習えへんかなあ、とぼやいたら瞬が紹介したい子がおるって言ってな」
そうなんだ、とさなえが瞬を見ると、瞬がドヤ顔をした。
そうして、瞬と高柳がどういう関係なのかも教えてもらった。接点は、フットサルだった。瞬は、持ち前の外見を生かしてファッション誌のモデルをやっている。趣味で楽しんでいるフットサルチームには、モデルやスタイリスト、タレントやミュージシャン、俳優もいる。高柳もその中の一人で、お互いスニーカーのコレクターだとわかると、すっかり意気投合し、それ以来飲み友達なのだそうだ。
「田島のことは、俺が悪かったよ。先走りすぎた。でも、高柳さんは、信頼できる人だから…さなえも喜ぶと思ったんだけど、どうかな?」
瞬が、少し声のトーンを落として言った。大学の同級生の田島を紹介してくれたのも、休日を独りで地味に過ごしているさなえを思いやってのことだった。田島も地味な奴だから、ちょっと会ってみればいいじゃん、と紹介してくれたのだ。
田島とは残念な結果になってしまったが、瞬の厚意は、ありがたいと思う。
瞬ちゃんって子供のときから世話焼きだったからなあ…。幼い頃、野良猫をさなえに抱っこさせようとして、瞬の方が猫にひっかかれたエピソードを思い出し、くすっと笑った。
笑った瞬間に、高柳と目が合った。
さなえはちょっと気持を落ち着かせてから、高柳に改めて向き直った。
「あの。私でよかったら…高柳さんのお力になれれば、と思います。でも、高柳さんがこいつ使えないな、って思ったら、容赦なく切ってください。高柳さんの大事な時間を無駄にするわけにはいきませんから」
ひと息に言って、息を吐いた。
ん、と高柳は、にっこり笑った。