オネエさんとOL
(林《りん》ちゃんが電話してたから泣かずにすんだけど、でもほんとは胸におでこ当てるくらいはしたかった……抱きつくのは大胆すぎるからしないとしても!)

 頭を撫でてほしかったなあ、と思ってしまう。

「ごめんなさい待たせたわね!」

 林太郎が勢いよく部屋に入ってきて、結は飛び上がった。電話は終わったようだ。

「あら何でコート脱いでないの、マフラーも」

 林太郎が、物思いにふけって突っ立っていた結のマフラーを外していく。その手の動きから、甘い香りがふんわりとした。林太郎はいつも甘くていい匂いがする。バニラではない、甘くていい匂いの何か。

 コートも脱がされて、壁のピクチャーレールにマフラーとともに引っかけられた。

「何か食べてきたの? 食べてないならご飯にしましょ」

「あ、た、食べてない! ごめんね、いきなり押しかけちゃって。お休みだったんでしょ?」

「いいわよ、家の掃除しかしてないし」

 林太郎がキッチンに移動するのについていく。ひとり用の冷蔵庫をあけた林太郎が、小さくうなる。

「そうねえ、ブリ鍋にしましょ。ちゃっちゃと作っちゃうから待ってて」

「え、手伝うよ?」
< 3 / 15 >

この作品をシェア

pagetop