オネエさんとOL
ご飯の準備
白菜を取り出した林太郎が結を見て思案顔になる。
「野菜とキノコ切るだけだからすぐ終わるわよ。じゃあそこから食器と卓上IH出して。座って待ってなさい」
キッチンの下の棚をさされた。たしかに林太郎は結より女子力が数段上なので、むしろいたら邪魔だろう。言われたとおり食器と卓上IHを出して、部屋のローテーブルについておとなしく待つことにする。
(でも邪魔って言わないあたり、気遣ってくれてるよなあ。ちょっと困った顔してたし)
正直、生身の人間と付き合うのは、もういいかなと思っていた。二年ほど前に長く付き合っていた彼氏と別れたが、最後のほうはずけずけと言い合いすぎて、お互い嫌になっていたのだと思う。
だからもう、『マンガとかドラマでいいや』と思うようになっていた。自分が恋愛しなくても、疑似体験できるだけでいい。マンガやドラマの男性は、がさつじゃないし、汚くないし、くさくないし、綺麗だ。結婚願望もないし、もう三十だし、汚かったりくさかったりする現実からは距離を置いて、綺麗なものだけ見て生きていきたい、と思っていた。