初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
03.
「リエラ! どういう事だ!」
「──はい? お兄様のせいでございましょう?」
王宮勤めの兄は、帰るなりリエラの部屋に乗り込んで憤怒している。
したかしないか分からないようなノックの後、直ぐ部屋に飛び込んで来た為、ソファで腹ばいで寝転んでいた姿を直す暇もなかった。
その様子に一瞬気を逸らしたので、違う雷が落ちるかもという希望が頭を掠めたが、ブレずに本題に進んでしまったのを残念に思う。
そして兄が怒りを露わにする醜聞。……それは、
「平民女に婚約者を取られたとはどういう事だ!?」
というものだった。
──いや、婚約していませんから。
と、聞いた瞬間リエラは呆けてしまった。
はっと意識を取り戻した後に教えてくれた友人たちに真実を話してきたけれど……
ゆっくりと身を起こし、兄──レイモンドに付き合う為に座り直す。
(……私に友好的な彼女たちは噂を否定してくれるでしょう)
とは言え、自分の方がムカついているというのに、何故兄に怒鳴られなければならないのだろうと、こめかみに青筋が浮かびそうである。
「あの席は第三王子殿下の計らいで用意された場なんだぞ!」
……だから。
(だからなんですよ、お兄様!)
リエラは、はぁと溜息を吐いた。