初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
「──ま、待って!」
息を切らせて追いついた背中に声を張る。
驚き振り返るシェイド様にリエラは急いで自己紹介をした。
「わ、私! リエラ・アロットです!」
会いたかった思いを込め、胸に手を当てて吐き出した言葉に、シェイドは目を丸くして、口元を小さく綻ばせた。
「ああ──……うん」
──彼は微笑んでいた。
でも眼差しは凪いでいた。
それを見てリエラは一気に冷静になり、悟った。
(ああ、彼は……)
望んでこの場に来たのでは無いのだと。
アロット家は伯爵家ながら、古くから王家に仕える由緒ある家柄だ。
そして聞いたところによると彼の家格は子爵家。……断れない立場だったのではなかろうか。
「初めましてリエラ嬢、今日はお招きありがとう」
「……こちらこそ、ウォーカー令息。来て頂いてありがとうございます」
流れるような動作で頭を下げるシェイドに、リエラも淑女の礼をとった。
目の前に手が差し伸べられて、重ねた自分の手に唇を落とす仕草を返された。
……実際に口付けを落とさないのが礼儀なので、これはおかしくはない。
けれどリエラの手に顔を寄せるシェイドの眉は寄っていて。
(……嫌なのね)
リエラの気持ちはずんと沈んだ。
貴族の子女とは言え、お互いまだ成人前。
礼儀を身につけていてもそれを実戦で完璧に振る舞える程、二人は熟達してはいなかった。
リエラもまた未熟ではあるが、シェイドに抱いた恋心故、そのささやかな機微に気づいてしまったのだ。