初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
明るく告げればクライドは安堵したように柔らかく微笑んだ。
成る程、人気が高いのも頷ける。リエラは内心でうんうん頷いた。
「……そうか、そう言って貰えると助かるよ」
それからクライドは父に顔を向ける。
「伯爵、この後少し時間を貰えるだろうか」
「はい殿下」
きっとここから先は折衝の時間だろうとリエラが腰を浮かせれば、クライドがそれを制した。
「リエラ嬢、本当はこれから茶の席を用意したかったのだが、申し訳ない。時間が取れなくて……」
「そんな、お気になさらないで下さいませ。お忙しい中お時間を割いて頂いただけで、私には感謝しかございませんから」
リエラはにっこりと首を横に振った。
王族とお茶? そんなもの気持ちだけで充分だ。
今だって父がいてくれなかったら、まともな受け答えだって怪しいくらいなのに。
「……ではせめてお土産を持たせよう。シェイド、用意してくれ」
そう声を掛ける殿下の視線を辿れずリエラはそっと顔を俯けた。
「かしこまりました」
返事と共に踵を返すのはシェイド・ウォーカー子爵令息。
リエラの苦い初恋の相手だった。
顔を俯けたまま、リエラは小さく唇を噛んだ。
(だから関わりたく無かったのに……)
妙齢の令嬢がチャンスと浮かれるだろうこの場所も、第三王子にも、リエラは絶対に近付きたく無かった。
……彼に会うのが嫌だったから。