初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
05.
シェイド・ウォーカー子爵令息は学生時代、第三王子クライドと同窓だった。子爵家とは言え優秀な成績を収め、剣技にも優れた彼は高位貴族が占めるクラスに籍を置いていた為だ。
やがて生徒会長であるクライド自ら生徒会に抜擢。高位貴族にも引けを取らない実力を発揮した。
(優秀で、格好良かったわ……)
リエラは一学年下だったけれど、学園内の、特に第三王子にまつわる噂話は良く聞こえてきた。
第三王子が歩く場所は女生徒たちがキャーキャーとはしゃぐ。当然その側近にも熱い視線が注がれた。
けれど四年ぶりに見たシェイドは、顔半分を覆う黒縁メガネと長く伸ばした前髪で、顔の造作が分からなくなっていた。
緩い癖毛の黒髪は肩の辺りで纏められているが、顔に掛かる部分は、紺碧の瞳は、整った顔立ちも一切見えない。
本当ならクライドにも負けず劣らずのその美貌はすっぽりと隠されており、どこか人の視線を避けてすらいるようだった。
そしてそれを見てリエラは愕然としたのだ。
(私のせいだ……)
リエラが勝手に期待して、嫌がるシェイドに迫ったから。
クライドに群がる女生徒たちはシェイドには目もくれない。
本当は素敵な方なのに。
容姿以上に努力して勝ち取った功績は素晴らしく、けれど誰もがクライドの輝く容姿に目を奪われ憧れの眼差しを向けるものの、シェイドの活躍に黄色い悲鳴を聞く事はとんと無かった。
そんなシェイドの姿が申し訳なくて、痛々しくて。学園期間、リエラは目を背けるしか出来なかった。