初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
げっ
淑女として口にしてはいけないだろう一言を何とか飲み込み。とは言え引き攣った顔を取り繕う余裕もないままリエラは固まった。
「貴様! よくもこの私に恥をかかせてくれたな!」
(……いや、それ私の台詞なんですけど)
とは、ぎりぎりと締まる腕の力に気を取られ、口に出来なかったが。
「私が王城への取り継ぎが出来ない中、何故お前ごときに許可が下りている! 一体中で何を話してきた!? まさかまた私に不利益な事を殿下らにお伝えしたのではなかろうな!」
……どうやら彼は自業自得で門前払いを食らっているらしい。ザマァみ……げほごほ。……まごう事ない本心と、痛いから放してよ馬鹿力! という、口にし難い悪い言葉が頭を過ぎり、リエラは歯を食いしばった。
この男の顛末は聞くまでもなく想像が出来る。
先手を打ったのは父、アロット伯爵だ。
昨日の夕方にはクライドとの場を用意してあったところを見るに、同時にセドリー伯爵家への牽制も済んでいたのだろう。
アロット伯爵家は由緒正しい家柄だ。
王家の縁戚とは言え対等と言えなくもない。その上でクライドは今回の一件を鑑みて、セドリー家を罰する事に決めたのだろう。